TSUKUCOMM-29
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留学についてどのようにお考えですか?藪野:留学するということは、日本にいて何の現状も変更しない学生生活に比べるとリスクがあります。でも、だからこそ危機管理能力が身に付きます。人の助けがないということは、自分で物を考えて自分で行動しなければいけないし、自分で責任を持たなければいけない。そういう自律した人間を作ることができるので、学生にはぜひ外国に行ってほしいと思います。それに、国が違えば、地面の色も違うし空気も違う。いろんな状況が違います。でも、状況が違う中でも生活を重ねているうちに日常化して、違いというものが特別なものでも何でもないもののように思えてきます。ぜひ体験してほしいと思います。玉川:飛行機から見ると、スペインの土の色は真っ赤だし、イタリアは黄色ですよね。そういう土の色の違いを知っただけでも、経験するってすごいなと思いました。視覚的な記憶って重要だと思います。それから、海外で生活すると精神的にタフになりますね。藪野:そうですね。日本に帰る頃には「自分は世界中どこでも大丈夫」という自信がつきました。食べることに関してもね。2ヶ月間エジプトで模写生活している時もそうでした。毎日羊の肉だったんです。「今日も同じか」と思っているうちに、どんどん微妙においしく感じるようになっいますよね。藪野:経歴からかもしれませんね。早稲田で講師をしたのは、理工学部と政経学部でしたし、リタイアした今でも機械工学の授業をしています。玉川:僕は、30歳後半になって、文化庁在外研修員特別派遣としてフランスに行くことができましたが、昭和40年代に海外に留学するということは、すごく大変なことだったのではないでしょうか?当時は、行きたいと思っても行けないという感じでした。藪野:海外渡航が珍しい時代だったので、誰かが行くとなると、羽田空港に見送りに行ったものです。僕の時も、ひときわ薄汚れたエンジ色の旗を振る一団が見送ってくれました(笑)。その中には恩師の安藤先生の姿もありました。その頃安藤先生はがんセンターに入院されていて、僕がスペインに行っている間に亡くなったのですが、病気の体を押して、研究室の学生に抱きかかえられながら送ってくださったのです。玉川:今より行く覚悟も必要だったでしょうね。筑波大学では、留学生をたくさん受け入れると同時に、日本人学生の海外留学を奨励しています。学生の海外なっていて、書で入学した学生がデザイナーで卒業したり、芸術学専攻で、デッサンの試験も受けずに入学した学生が、油絵で卒業することもあります。藪野:それはいいシステムですね。大学に入って、初めて出会う学問の世界ってあるじゃないですか。私は、大学で、建築の今井兼次先生、美術史の安藤更正先生、美術評論の坂崎乙郎先生、この3人の先生に出会った時に、自分が根底から全て崩されるという経験をしました。崩壊したところから、つまり、ゼロから自分を作っていったというのは、ゼロから油絵を描き始めたことと、ひょっとして深く関わっているのかもしれません。自分の中にある可能性を拓くことができたり、行動に移したりできるのは、学生時代という限られた時期だけではないでしょうか。頭脳だって、興味だって、体力だって、そういうことができるチャンスはそれ程ありません。玉川:藪野さんは、絵描きになる導入も違ったけれど、結果として現在まで講義などで学生に伝えている部分でも幅が違“状況が違うことが日常化すると何でもないことになる”海外留学TSUKUBA COMMUNICATIONS10

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