TSUKUCOMM-29
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● 悪性脳腫瘍のBNCTによる治療例外科手術前BNCT前25ヵ月後BNCT実施外科手術で肉眼で見えるがんの塊を取り除いた後、細胞レベルで残っているがんに対してBNCT治療を施したところ、治療後2年経過しても再発は見られない。(一般的な外科手術にX線治療を組み合わせた療法の場合、通常、細胞レベルで残っているがんが再発する)BNCT実施■短期間で効果を得る中性子治療 ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)は、ホウ素と中性子が反応して生じるアルファ線とリチウム粒子によって、がん細胞を選択的に破壊する治療法です。がん細胞だけに集まる性質を持つ薬剤にホウ素を導入し、これを投与することでがん細胞にホウ素を取り込み、そこへ中性子線を照射します。がん細胞内で発生するアルファ線とリチウム粒子が飛べる距離は10ミクロン程度。ちょうど細胞1個のサイズに相当します。つまり、がん細胞のDNAだけを破壊し、そこで止まるので、周囲の正常細胞への影響はありません。 とりわけその効果が発揮されるのは、悪性の脳腫瘍や頭頸部のがんなど、外科的に取り除くことが難しいがんです。放射線治療で一般的に使われるX線は、体内を通り抜けるため、がん細胞に集中して照射することが難しく、周囲の正常な細胞にもダメージを与えてしまいますが、BNCTを使えば、正常細胞の中に散らばったがん細胞だけを選択的に攻撃することができます。がんが再発した場合でも、正常細胞が許容できる放射線量を越えることなく、繰り返し放射線治療を施すこともできるのです。 また、通常の放射線治療では数10回の照射が必要で、治療期間も1カ月以上に及びますが、BNCTだと重篤な症例でも30分程度の照射1回で十分です。BNCTの殺細胞効果はとても強力で、照射後、1カ月程度でがんが消滅していきます。BNCTは、患者にとっての負担が小さい上に、高い治療効果が得られる画期的な方法です。■加速器と医療をつなぐ この治療方法に不可欠なのが中性子線を発生させる装置です。その方式には、原子炉を使うものと加速器を使うものの2通りがあります。原子炉方式は、東海村と京都大学で研究されていましたが、東日本大震災後、いずれも稼働しておらず、運用面で治療方法としての実現は不可能な状況です。一方、加速器方式は、装置を病院に併設でき、原子炉のように高度な放射線管理や定期的に停止させる必要もありません。臨床研究を進め、医療の段階へとステップアップすることができます。 開発しているのは、長さ7mほどの直線型加速器。高エネルギー加速器研究機構や企業との連携プロジェクトとして、つくば国際戦略総合特区の取り組みの一つになっています。加速器は通常、素粒子や原子を観察したり、物質の極限構造を調べるのに用いられ熊田 博明 准教授(医学医療系)病院で加速器が動き出す日中性子が拓く次世代がん治療の最前線早期発見・早期治療ががん治療の基本です。しかし、治療が難しい部位や再発といった課題は常につきまといます。そんな中で注目されているのがホウ素中性子捕捉療法。放射線治療の一種ですが、正常な組織に与えるダメージが少なく、手術が困難な部位や、悪性のがんに対して効果の高い治療方法として期待されています。医学物理士として、そのための加速器開発に携わり、さらに治療方法の確立に向けて、医療との橋渡し役を担っています。BNCT用加速器聴TSUKUBA COMMUNICATIONS15

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