TSUKUCOMM-29
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れぞれが研究の幅を広げていくスタイルです。技術と社会、世界をつなぐ 近年、大学における文系分野の在り方が問われています。研究成果が世の中の役に立っていることが見えにくいという指摘です。確かに、実験装置や特別な施設はほとんど必要なく、成果が何らかの製品に応用されることもごく稀ですから、極端に言えば、大学へ来なくても研究はできるわけです。そのため、自分の興味だけに没頭してしまう「たこつぼ化」に陥ってしまいがち。そこから抜け出して、文系の知識を社会的な意義に還元することが求められています。 人文社会科学は人間の本質を知ること、人間の社会や文化についての学問です。現代社会では、人間とテクノロジーの尺度にずれが生じ、せっかくの発明や発見が十分に力を発揮できない場面が現れます。例えば、ロボットが普及した社会に必要な法律やインフラ、生命を人為的に操る技術を扱う倫理観、震災復興などは、まさに人間の社会や文化の問題。新しい技術は、人文社会科学のフィルターを通って初めて社会に実装されるのです。ICRの研究は、ロボット開発などの理系分野とも並走し、技術と社会の間をつないでいます。 また人文社会科学は、国際協力を推進する鍵でもあります。現在、筑波大学は12カ国に海外拠点を設けていますが、これらの「並走型」分野融合の拠点 「人文社会国際比較研究」という名称には、筑波大学の文系研究のエッセンスが詰まっています。既存の、国際比較日本研究センター、西アジア文明研究センター、それに日本語・日本文化の研究グループ、それらをすべて巻き込んでひとつの組織にしたのが人文社会国際比較研究機構。従来、独立に行ってきた研究の全体像を俯瞰したり、相互交流や共同研究がしやすい体制になりました。 ICRが扱う研究分野は、世界各国の市民社会を分析する政治学・社会学、文明の発祥や移動過程を探る考古学、日本や世界の多様性を理解するための言語・文化研究など多岐にわたります。さらに、海外教育研究ユニット招致プロジェクトとして、インド・チベット学や仏教学にも取り組んでいます。一見すると、互いに接点のないテーマのようですが、中東など政情が不安定な地域での考古学の発掘調査は、まさにその国々の政治状況に左右されますし、政治イデオロギーや文化の形成には言語や宗教が大きく影響しています。 そういった関連性は、実は研究者自身もあまり気づいていませんでしたが、ICRとしてまとまったことで、相互の重要性が認識されるようになりました。ここでの異分野融合は、みんなで集まって新しい研究領域を創出するというよりもむしろ、さまざまな分野と共に刺激しあいながら「並走」することで、そ学内組織紹介人文社会国際比較研究機構人文社会国際比較研究機構(ICR)は、2013年、文部科学省による研究大学強化促進事業の一環として、個々に行われてきた人文社会科学研究を体系的に推進し、現実社会の中で真に役立つ知識を構造化していくことを目指して設立されました。この事業の支援対象となった22の研究機関のうち、文系の研究分野を掲げたのは筑波大学だけ。その意味でもICRには大きな期待が集まっています。筑波キャンパスは、東西約1㎞、南北約4㎞の広大なキャンパス(東京ディズニーリゾートの面積の約2.4倍)です。広いキャンパスにはさまざまな教育・研究組織があります。その組織や施設がどのように設置され、どのようなことをしているかを紹介いたします。Institute for Comparative Research in Human and Social SciencesIntroduce辻中 豊 機構長TSUKUBA COMMUNICATIONS16

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