TSUKUCOMM-29
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国々との関係構築のきっかけの多くは人文社会系の研究活動です。アフリカ進出や資源確保といった日本政府の戦略の一端を担う形で、文化交流や教育支援を行ってきた、その蓄積が、現地の社会や文化を理解し、活動基盤を整える源泉になっています。成果発信と情報共有の窓を開く ICRでは、成果発信の「見える化」にも精力的に取り組んでいます。文系研究の世界では、10年単位で成果を集大成として出版する方式が定着しており、学会発表などはあまり重視されない傾向があります。また、「ネイチャー」や「サイエンス」のような国際的に認知された学術雑誌がなく、優れた研究でも論文は日本語でしか書かれないこともしばしばです。そのような事情があるにせよ、研究について定常的に広く発信するという姿勢が乏しいことへの反省がありました。 しかし10年に一度であっても、きちんとまとめられた成果は、その後、長期にわたって世界中で引用されます。ただし、そのためには英語や中国語などさまざまな言語に翻訳されることが不可欠。要旨だけでも英訳されていれば、引用や全編引用や翻訳のきっかけになります。さらに、出版事情も厳しくなる中、研究の途中段階の情報や埋もれていた成果を、ウェブなどを活用してどんどん発信していくための支援も進めています。人文社会系で年1回発行する英語版電子ジャーナル「Inter Faculty」もその一助です。「学術の世界にとどまらず、持っている情報を、ネット上の検索にヒットする形で積極的に見せることが、自分たちの研究にたどり着いてもらうための窓を開くことになるのです」(辻中機構長)存在感ある新しい人文社会科学へ セミナーや講演会・シンポジウムなども、年間を通じて開催しています。それらのほとんどは、各分野の世界的な権威を招へいしたり、国内外の研究機関との共催で行われており、海外で実施する場合もあります。哲学や考古学からネット社会、震災復興、安全保障まで、従来の人文社会科学の枠組みにとらわれない幅広いテーマでディスカッションを深めています。 ICRは、教育やビジネス、図書館情報の分野とも協働して、全学的な研究機関へと発展しようとしています。これらの分野の研究者は学内に350名ほど。実は教員の20%を占めるほどの大きなグループで、外国人や女性の研究者比率も高いという特徴があります。辻中機構長は、「多様な研究者が流動的に集い、一定期間、研究活動に集中できるような仕組みと環境を整えていきたい」と構想を語ります。互いの研究に入り込んで情報や知識を構造化すると同時に、さまざまな研究活動と並走し、技術と社会の懸け橋となる、そんな新しい人文社会科学が生まれつつあります。フランス国立社会科学高等学院で共催実施したシンポジウムTSUKUBA COMMUNICATIONS17

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