TSUKUCOMM-29
3/36

小林:そこまでフレキシブルに、今ある自分自身への執着を捨てられるかどうかですね。現状に甘んじて「そっちの方が軽やかで、なんとなく幸せで、なんとなく心地よいから」と今の自分を守るという現代の風潮、これを壊さなきゃ駄目です。永田:そういう風潮は、自分の能力以外のところで充足しているからなのかもしれません。「自分がこうしたい、ああなりたい」とか「こういうことをやってみたい」という飢餓感はあるのでしょうが、それを代償するようなものが今の日本にはたくさんあります。「心地よさ」や「幸福感」を排除することはできないので、現代の若い人に、強い飢餓感をどうやって持たせるかが問題です。小林:今、世界は大変な危機的状況にあります。日本の人口は減少していますが、世界では人口が90億、100億と増え続け、このままでは、食糧もきれいな水も足りなくなり、エネルギーも枯渇するでしょう。CO2や気候変動などの問題もあります。こういう地球的課題を解決しなければ、人類は存続できません。私たち日本人もそういう危機感を持つ必要があります。若い人たちが「自分が地球を救う」と信じて行動するくらいの大きなロマンを持てるような教育をしてほしいと思います。を求める」ということは、この原則がわかっていないということだと思います。永田:学問も商売も安住なんてありえませんね。老舗のことを調べてみても、みんな努力し続けています。小林:若い人たちには、時代の変化に対する感覚を研ぎ澄まして、変化に敏感に対応するという自分自身を持っていただきたい。そして、「自分は何か、何のために存在しているのか」、「自分の人生を意味のあるものにするために何をすればいいか」を常に問い詰めてほしい。人間は、この根源的なところでハングリーにならないといけないと思います。自分の存在そのものにさえ疑問を持ち、時代に対する怒りを持ちながら展開していくことで、変革へのエネルギーが生まれてきます。永田:大学に残って学問をやっていても、「もうこの環境では変われない。なんとかしたいな」という時があります。そういう時が実はチャンスです。たぶんその時に小林会長はヘブライ大学に行かれたのでしょうし、僕はニューヨークに行きました。「自分の力しか頼れないところに行こう。これから何年間かはとにかく精一杯やってみて、もしダメだったら、違う道を考えればいい。何をやったって生きていけるだろう」と考えていました。「地球の危機を救う」というロマンを持つ永田:小林会長には、筑波大学経営協議会委員として日頃から本学を支えていただき、ありがとうございます。理学博士号を取得されている小林会長ですが、今は産業界のトップとして頑張っておられます。さらに、イスラエルのヘブライ大学に留学されるなど、さまざまなチャレンジもされてきました。小林:研究をやっているうちに、いつの間にか事業をやり、最後にはマネージメントをやることになりましたからね(笑)。永田:筑波大学の場合、理工系の学生はだいたい大学院に行きますが、ドクターを取って産業界に行きたいという学生がなかなか増えません。今の学生は全体的に「安住」を求めている感じがします。でも、僕は、いずれの方面に行くとしても安住型じゃないようにしてやりたい。小林会長は研究職に就かれて、そのプロフェッショナルでした。でも、そこに安住しなかったわけですよね。小林:「安住」を追い求めても安住の地なんてないのです。世の中は常に変わっているから、私たちもこれに合わせて変わらなければ生きていけない。「安住小林 喜光 氏1946年 山梨県 生まれ1971年 東京大学大学院理学系研究科相関理化学修士課程修了1972年 ヘブライ大学(イスラエル)物理化学科留学1973年 ビサ大学化学科1974年 三菱化成工業(現・三菱化学)入社1975年 東京大学理学博士号取得2007年 三菱ケミカルホールディングス代表取締役社長兼三菱化学代表取締役社長2012年 兼三菱化学代表取締役会長 2015年 三菱ケミカルホールディングス取締役会長経済同友会代表幹事永田 恭介 学長1953年 愛知県生まれ1981年 東京大学薬学研究科博士課程修了アルバート・アインシュタイン医科大学博士研究員1984年 スローンケタリング記念癌センターリサーチフェロー1985年 国立遺伝子研究所分子遺伝子研究系・助手1999年 東京工業大学生命理工学研究科・助教授2001年 筑波大学基礎医学系・教授2012年 筑波大学学長特別補佐2013年 筑波大学長MEMBER PROFILE経済同友会代表幹事三菱ケミカルホールディングス取締役会長筑波大学長TSUKUBA COMMUNICATIONS03

元のページ  ../index.html#3

このブックを見る