TSUKUCOMM-29
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大学改革を先導する責任を果たす永田:日本の国立大学というのは、世界の中でも独特です。オーストラリアには国立大学が1校しかありませんし、欧米でいえば、ドイツ以外にはほとんどありません。日本は、明治時代に一気に近代化した中で帝国大学ができ、その後も、新制大学も含めて、「国の力で作るしかない」といったことが基盤にあるわけですけれど。今問われているのは「国立大学をどうするか」という問題です。ご存じの通り、過去のノーベル賞受賞者は全部国立大学出身ですし、能力が下がっているわけはないのですが、改革が遅いのです。小林:そうですね。今、私立大学は大きく変わってきていますが、国立大学は現在の制度や仕組みの下では変革が難しいところもあるかもしれません。しかし、国立大学も構造改革をやっていかなくてはならない。私が学生だったのは40年以上も前ですが、専攻はインターディシプリナリー・サイエンス(学際科学)でした。当時から「数学、物理学、化学、生物学という分類はない。生物物理であり、生化学であり、量子力学に統計力学を合わせたものであり、というように、境界領域にしか社会の課題を解決する方法はない」という考え方をしていましたから。それからもう40年以上経っているのに、専門領域というサイロを壊して横串を通すことがまだ実現していません。永田:よく学生にも言うのですが、今から500年前に戻ると、学問の種類には、数学と天文学と論理学くらいしかありません。学問には、融合や廃止、次のものへの転換などが普遍的にあるはずで、それが、新しい学問を生んできました。でも、今学問をしている人は、そこに安住してしまっていて、変化しようとしません。小林:それが楽だからですね。チャレンジするというのはきついことですが、「自分を守るために、10~20年このまま教授でいられればいい」というような感覚は捨てて、チャレンジし続けないと未来はありません。永田:そうですね。小林:大学改革に関しては、学長の裁量部分もかなりあるようですから、永田学長が変なことをやればいいんですよ(笑)。8割は今のルールに合わせても、2割はやりたいことをやったらいかがですか。その2割で、とんでもない学生を作るために、とんでもないアイデアを出して、そこで自由にやらせると。そういうことに期待したいですね。永田:筑波大学はよくできた大学です。つまり、それが可能なんですね。この大学の第一の理念は「とにかく人がやっていないことをやらなければいけない」。システムも教育も研究も全てにおいて。ですから、「これも一番初めだった」「それも一番初めだった」というのがDNAとしてあります。先程お話があった学際的な教育なども、日本で最も積極的に取り組んでいる大学だと自負しています。後は、僕がどう英断をふるって、どういうスピード感でやるかということですね(笑)。これからしばらくが勝負の時です。2年では難しくても、4年かけてはいけないと思うので、その間くらいで、「国立大学はそういう方向に行くんですね」というように示さないと、新構想大学として出発した筑波大学の存在感がなくなってしまいます。小林:ロケーション的にも産業技術総合研究所など周囲にたくさんの研究機関が集まっている筑波大学は、すごく大きなポテンシャルとチャンスを持っている大学だと思いますよ。永田:荒れ野に大学やいろいろな研究所を作って、それぞれがそれぞれの殻を一生懸命作ってきました。今、ようやく開放に向かったという感じです。研究所の方々と、「つくばで何か新しいイノベーションを起こそう」という話をよくするようになりました。小林:米国では、新しいコンセプトやテクノロジーのほとんどがスタンフォード大学やハーバード大学など、企業との連携に積極的な大学から出ています。筑波大学もそのような産学連携の場になってほしいですね。永田:最後に、本学の教職員や学生に一言お願いします。小林:人生は、偶然生まれたことから出発しますが、どうせ死ぬのであれば、生きている間に、何か「俺はこれをやったんだ」「私はこれを残したんだ」と言えることをやってほしい。そのためには、自分の強いところを見つけて、そこに猛進するということだと思います。永田:本日はどうもありがとうございました。※1 IOT(Internet of Things)モノのインターネット。世の中にあるさまざまなモノに通信機能を持たせ、インターネットに接続したり、相互に通信することによって、自動認識や自動制御などを行うこと。※2 インダストリアル・インターネット・コンソーシアム(IIC)2014年春に、アメリカ企業のGE、AT&T、シスコシステムズ、IBMが結成したオープンな非営利団体で、参加企業を大きく増やしている。サイロ化したテクノロジー間の障壁を取り除き、機器同士のコミュニケーションを改善することなどが目的。※3 Industrie 4.02011年11月に公布された「High-Tech Strategy 2020 Action Plan(高度技術戦略の2020年に向けた実行計画)」というドイツ政府の戦略的施策。※4 サイロ状サイロは家畜の飼料貯蔵庫。窓がなく周囲が見えないことから、組織が縦割り構造になっていて、外部との連携を持たず、孤立しているさまを示す。※5 スタートアップが多いイスラエル人口約776万人のイスラエルにおけるベンチャーキャピタル(VC)の年間投資額は2000億円で、人口約1億人の日本の約2倍。※6 Google X多様な先端的プロジェクトに取り組むグーグルの研究部門TSUKUBA COMMUNICATIONS06

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