TSUKUCOMM-30
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PROFILEだったのでしょうか。これらのメッセージを見ていくと、そういうところにまで考察が広がります。膨大な資料を保管するにはデジタル化も不可欠ですが、実物の持つ情報量は比較になりません。デジタルとアナログ、両方の情報を評価選別しながら、震災の記憶を残していきます。■資料保全の体制づくり 震災後の4年間を通じて、たくさんの経験が蓄積され、地域の研究者や行政機関とのつながりができました。それを暗黙知にとどめず、災害時における資料保全のマネジメント手法として普遍化する研究にも注力しています。官民の連携なくして、資料や公文書を扱うことはできませんし、大勢のボランティアがいても、彼らを統率し、作業の手順を指示し、関係機関との連絡調整をする、そのメカニズムがなければ適切な資料保全もままならないのです。 去る9月に発生した大雨による常総市での洪水の時は、今までの経験と構想が試されました。市役所で保管していた約25000点の公文書の半数近くが水没し、そこには江戸時代から引き継がれてきた貴重な資料も含まれていました。これを案じた地元の歴史家などが連絡を取り合い、筑波大学に依頼が来たのです。文書類をレスキューしつつ、今後も管理し続けていくためのシステムを、行政とともに検討しています。■誰もが発信できるアーカイブへ アーカイブされた資料は、閲覧・活用されてはじめて、その価値を発揮します。近年のデジタルアーカイブ技術は、閲覧・活用の可能性を大きく広げています。双葉町の震災資料を公開しているホームページにも、閲覧者が新たな情報を付与し、みんなで活用する機能を加える計画を、同じ知的コミュニティ基盤研究センターの森嶋厚行教授のチームと進めています。 その仕掛けはマイクロタスク型クラウドソーシング。クラウド上で、不特定多数のユーザーがデータ入力などの簡単なタスクを行い、それらを集積して大きな課題を解決するサービスです。これを応用し、写真など個々の震災資料に、閲覧者が自分の言語でタグを付けられるようにします。それによって資料が閲覧者のものにもなり、世界中の閲覧者と共有されていく仕組みです。双方向のコミュニケーションを伴う、新しいタイプのアーカイブの実現はもうすぐです。 職と住が分離された現代社会では、何代にもわたって同じ土地に住み続けることは少なくなり、故郷を離れて暮らす人も珍しくありません。そんな中で、地域の歴史としての震災資料をどのような形で後世に伝えていくか、その研究はアーカイブズ学の重要な使命です。1962年 神奈川県生まれ1985年 明治大学文学部 史学地理学科 卒業1992年 明治大学大学院 文学研究科 史学専攻 単位取得退学1992年 埼玉県教育委員会に学芸員として採用。文化財保護課、文書館、博物館、 文学館の職場を歴任2009年 筑波大学 大学院図書館情報メディア研究科 准教授2013年より現職2011年3月11日に卒業式を迎えていた双葉中学校の現状を記録常総市公文書レスキュー(水損した公文書の運び出し。筑波大学の院生も参加)水損被害を受けた19世紀の公文書(常総市)白しらい井 哲てつや哉 教授(図書館情報メディア系)筑波大学に運び込まれた震災資料TSUKUBA COMMUNICATIONS10

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