TSUKUCOMM-30
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す教師という仕事は、藻利先生の心からのよろこびです。教材として使った、大きな葉のついたブロッコリーや土の香りの残る大根などの野菜は、授業の後、生徒たちの提案で、分け合って自宅へ持ち帰ることになりました。実はこの野菜を提供してくれた農家は、9年前にもインタビューに応じてくれています。当時の様子と比較してみると、農家や農業の在り方に大きな変化が生じていることが分かります。生徒たちは皆、それぞれの食卓を囲みながら、今日学んだことを振り返り、人々の思いを受け止めたことでしょう。藻利國恵先生の出身地は、みかんの生産で有名な愛媛県松山市。温暖な気候で育ったことが影響してか、とても穏やかなお人柄です。藻利先生は、同僚からの信頼が厚いことで有名です。特に学級経営や生徒指導に悩んでいる若い先生へのアドバイスは的確です。心温かい言葉をかけてもらえることから、子どもたちや保護者はもちろん、卒業生からも相談を持ちかけられます。一つ一つの相談事に対し、丁寧に対応している藻利先生の真摯な姿勢には頭が下がります。また、藻利先生は、博学連携を研究テーマとして掲げ実践を続けてこられました。考古学を研究している大学の先生や博物館の学芸員の方々と共に、地域学習(奈良・平安時代の市川市)の研究に取り組み、その成果を学会や研究会で発表してこられました。今後益々のご活躍を期待しています。伊藤 僚幸 副校長佐渡島や寒河江を始め全国を巡り、何日もかけて地形や水利を観察し、人々の生活やその土地の歴史に触れました。それはとても楽しい経験でした。今も各地へ取材に出かけます。現地へ行ってみると、教科書には載っていない発見や出会い、感動があります。いつもカメラを持ち歩き、教材になりそうな地形や風景を見つけると、すかさずシャッターを切ります。同じ写真でも、教科書にあるものと、先生自らが撮影したものとでは、生徒の受け止め方も違います。授業は、生徒たちが藻利先生の旅を追体験する時間でもあります。高等部へ進学すると大学受験が控えています。そう考えると、本当の意味での勉強ができるのは中学まで。地理という教科の中で、できるだけ多様な体験をし、いろいろな土地や国で働き、暮らす人たちの生き様や力強さを知ってほしいと願っています。それが、これから社会へ巣立っていく生徒たちの心の糧にもなるからです。ジオラマや模型など工夫を凝らした教材を作り、取材に赴き、保護者や地元の人々とのネットワークを大切にする。生徒のために、生徒とともに過ごある材料を使って、いとも簡単にジオラマを作り上げます。アルプスの山々、故郷のみかん畑、林間学校で訪ねる甲府盆地の扇状地・・・地図と写真とジオラマを組み合わせると、地形が形成される仕組みや土地利用の状況を立体的に把握することができます。また、山の向こう側にも別の町や国があること、世界がつながっていることを実感します。グラフの読み解き方、土壌の改良、作物の栽培と流通、農家の高齢化や耕作放棄地の問題、地域の歴史や文化などなど、地理の授業には他の教科の要素もたくさん含まれています。それらの教科とも緊密に連携しながら授業を組み立てます。こうして、ある地域のことを複眼的に捉えることができると、おのずと気付きが生まれ、理解が進んで記憶が定着するはずです。知識があっても、自分が見たこともない場所のことを話すのは難しいものです。さまざまな土地へ行き、歩いて、その地域のことを取材する。その体験を伝えることが重要だと藻利先生は語ります。その原点は、学生時代に師事した地理科の先生の教えにあります。とにかく自分で歩いて巡検しなければ分からない、と、TSUKUBA COMMUNICATIONS15

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