TSUKUCOMM-31
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全生物の系統樹(生命の樹)国際アドバイザリーボードでの報告モデルによる放射線物質の輸送再現形が見えてきた応用研究 本学発の生命環境分野の応用研究としては、藻類バイオマスやトマトの品種改良がよく知られています。エネルギーや食糧といった重要課題の解決に資するものとして、世界的にも注目される研究です。いずれも、生命環境開発研究センターに属するテーマですが、前者はすでに企業からの出資を受け、機構から独立した研究体制となっており、商品化に至った成果も産み出しました。後者も、受粉なしで実をつける品種や、甘みを増した品種などが開発され、実験室レベルでの研究から実用化に向けた産学連携が進められています。 アイソトープ環境動態研究センターは、東日本大震災後、研究の方向性が一変しました。生命環境系でもともと行っていたのは土壌中の放射性物質の動きから土砂の移動や地形の変化を追う研究。1950~60年代に欧米や旧ソ連が実施した大気中核実験に由来する放射性物質が今も土の中に残っており、それを特定し追跡していました。そこで培われた微量分析技術が、震災後に役立つこととなりました。現在は、原発事故により放出された放射性物質の、環境中での移動メカニズムの解明や除染技術の開発がメインテーマです。IAEA(国際原子力機関)との連携や、放射性物質に関するリスクコミュニケーションにも取り組み、この分野の主導的役割を果たしています。共通の研究基盤づくりに向けて 機構には国際アドバイザリーボードが設置されており、運営主体となる研究戦略会議に対して、毎年、評価と助言を行います。メンバーには各分野で活躍する国内外の第一人者が名を連ねています。学内にある数多くの研究組織の中でも、このような定期的に外部評価を受ける体制を設けているのは珍しい例です。 昨年12月に最初の評価があり、運営全般としては良い評価が得られた反面、発展性のある基礎研究の在り方や組織のまとまりについては、もう一段の検討が必要との指摘を受けました。機構内ではセミナーなどを通じて、基礎研究と応用研究の交流を図ろうとしていますが、これらはストレートに結びつくわけではありません。「非常に専門性の高いそれぞれの研究から、共通の基盤となる技術や情報を集約、共有することで、研究テーマ間に横ぐしを通したい」と松本機構長は語ります。 最新の解析技術を駆使して、遺伝子、タンパク質、代謝物などさまざまなレベルで生物を網羅的に解析した基礎データは、微生物を用いた環境浄化や創薬など、実効性ある社会還元につながることが期待されます。しっかりとした基礎研究を中心に据えることで、応用研究の幅を広げ、新しい社会還元の出口が次々と創出されていくような拠点となるべく、これからが機構の本領発揮です。TSUKUBA COMMUNICATIONS13

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