TSUKUCOMM-31
7/32

ますが、「あなたなりのものを元から持っているのだから、あるがままにしていれば、自然に出てきますよ」と言ってあげたくなります。川:おっしゃるとおりですね。グローバルに活躍するために稲垣:ところで、最近、「グローバルな人材」というのが、いろいろなところで言われています。私の経験からしますと、海外の人たちと話していると、「日本ではこういう場面で、どういう風にするのですか?」「それはなぜですか?」と聞かれることがよくあります。私は理系なのですが、グローバルに活躍するためには、理系であろうと文系であろうと、単に幾つかの言語を操ることができるということではなく、日本の伝統や文化を正確に理解して、的確に相手に説明することができることが必要だと思っています。というのも、国や文化によって、感覚が全く違うことがよくあるからです。私が研究している車の自動運転は、人間がやるべきことを機械(ロボット)が代わりにやってくれるというシステムです。でも、ロボットが、「ここから先はできない」となったら、円滑に人間に権限を渡す。そういうシステムの開発に取り組んでいます。その根本には、「人間とロボットは、互いの能力を補い合う仲間」という考えがあります。ところが、国によっては、「ロボットは人間と敵対するもの」という考えをするんですね。日本には、鉄腕アトム以来、ロボットは人間の友達と考える文化がありますが、映画「アイ・ロボット」には、人間を攻撃するロボットが出てきます。そういうことが起きることが不思議でないと考える文化を持っている人たちもいるわけです。ですから、グローバルに活躍するためには、自分たちがどう考えるか、そして、なぜそういう考えに至ったのかを、正確に、相手の言語で説明できることが大事なのではないかと思うのです。川さんは、世界中で山海塾の公演活動をされています。その拠点は、コンテンポラリーダンスの世界最高峰である、パリ市立劇場だそうですが、フランスの文化などを背景において、それに合うように表現されているのでしょうか?川:それがここ数十年間の大きな問題でした。具体的に言いますと、我々の作品の中で、ダンサーが立ち上がって踊っていたものが、バタンと倒れて、それからもう一度、ふわぁーっと身体を浮き上がらせるというような踊りを見たフランス人から、「あれは復活のシーンですか?」と聞かれたりします。フランスはクリスチャンの国ですから。世界中を公演して回りますと、いろいろな宗教観の方や、文化の背景が全く違う方々がいて、それぞれ違う感想を持ちます。我々が全く予期しない解釈をされることもよくあります。稲垣:その問題をどのように解決されたのですか?川:数十年間、全世界の人の中で公演してきて、「観客の方々に解釈を委ねる」という結論に達しました。芸術作品だから許されることかもしれませんが…。宗教観も文化的背景もお互い全く違うということを認識した上で、言葉にはできない部分の、すごく深い部分でお互いに響きあうものを表現しよう、というような作品の作り方になってきました。稲垣:すごくいいお話を伺いました。例えば、外国で作られた音楽でも、昔から知っているような、親しみを感じることがあります。絵にしても、どこがいいかとか、言葉で説明できないもので、共鳴してしまうものがあります。あれは、自分の昔からの体験の中で、何か近いようなものがあった場合に、そういうようなものを感じるのでしょうか?川:23歳の頃でしたか、生まれて初めてパリに行った最初の夜に、みんなで黒澤明監督の『生きる』という映画を観に行きました。驚いたことに、フランス人も、僕らと同じところで泣くんです。最後の、歌を歌いながらブランコに揺られているシーンで、もう、おいおい泣くんですよ。その時、「こういう悲しいという心は全世界共通のものなんだな」と実感しました。「人生のはかなさ」というような根源的な感情は、国や文化による違いのない共通項なのです。留学生と積極的に交流してグローバルなネットワーク作りを稲垣:川さんには、講師だけでなく、式典の歌の指導などもお願いしています。たくさんの筑波大生と接する中で、日頃からいろいろなことを感じられていると思いますので、筑波大生に伝えたいことや期待したいことなどのメッセージをお願いします。川:学生時代に、アメリカから来た留学生と友達になり、今でも交流が続いています。今は昔よりもっとたくさんの留学生がいるのだから、ぜひ、積極的に交流してほしいですね。今僕は、地球一周できるくらい、各地にいろいろな友達がいます。筑波大学を拠点として、こういうグローバルなネットワークを作っていってほしいなと思います。稲垣:本学では、現在、100を越える国や地域からの留学生が学んでいます。学群で学んでいる留学生が500人くらい、大学院で学んでいる留学生が2000人くらいいます。ですから、積極的に彼らと交流すれば、地球一周できるネットワークを作ることも十分可能だと思います。川:それから、学生に、「筑波大学の広告をしなさい」という課題を出すと、「陸の孤島」といったネガティブなことをつらつらと上げてくるのですけれど、つくばエクスプレスもできて、筑波大学のイメージはかなり変わってきています。「非常にセンスがいい」とか、「格好いい」などと周りから見られるようになってきているんですよ。もっと、自分たちの大学に自信を持ってもらいたいですね。稲垣:いいお話をたくさん伺いました。どうもありがとうございました。川:最後にもう一言よろしいでしょうか。今、新しい表現がどんどん出てきています。例えば、「クリーンバンディット」というケンブリッジ大学出身の学生バンドは、エレクトロニクスとクラッシックを掛け合わせた全く新しいジャンルを作り出し、SNSやユーチューブを使って世界的に活躍するようになりました。そういう新しいメディアを使った、新しい手法の音楽を筑波大学の学生でやる人が出てきたらいいなと思っていますし、もし、そういうグループがあったらぜひプロデュースしたいので、ご連絡ください。一緒に、新しい時代を作りましょう!TSUKUBA COMMUNICATIONS07

元のページ  ../index.html#7

このブックを見る