TSUKUCOMM-33
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■ 政治学のメソッド 選挙の前後や重要な政策課題が議論される時には、様々な世論調査が行われます。そのデータを計量分析という手法を用いて科学的に分析することで、有権者の投票行動を明らかにしていきます。同じデータを使っても、項目の組み合わせ方などによって異なる解釈が導かれたり、時には想定外の結果が得られたりもしますが、データは正直です。政治学者と言えども、自分の意見を介在させる余地はありません。そこが、評論家やコメンテーターとの決定的な違いです。政治の研究は極めて科学的な営みなのです。 計量分析との出会いは大学院生の頃。今、熊本県知事をしている蒲島郁夫先生の大学院の授業で共同論文を執筆するために選んだのがイデオロギーでした。その共同論文がどんどん膨らみ、単位取得のために書くはずだった 90年代初めまでの、いわゆる「55年体制」と呼ばれていた時期は、各政党のイデオロギーは比較的離れて分布しており、自分のイデオロギーと照らして、支持政党を決めることが容易でした。しかしこの体制が崩れ、政党の分裂・合併が繰り返される中で政党ごとのカラーが薄れると、個々の政策や党首を評価し、それが自分にとって恩恵をもたらすかどうかによって投票先を決める人が増えてきました。この傾向は、日本人のイデオロギーがある一定の価値観に収れんしてきていることを示しているとも言えます。 しかし個人の利害で政策を捉えると、その人の立場や生活環境によって評価が分かれる上、憲法改正や安全保障など国家としての長期的な展望よりも、経済や福祉のような目前の問題ばかりに関心が向き、その時々で内閣支持率が上下したり、一貫性のない選択をすることになったりしてしまいます。■ 政党と有権者とイデオロギー 経済政策や安全保障の問題など、政治が解決すべき課題は山積しています。政党は様々な政策を提示し、法案を作り、議論が進んでいきます。こういった政治の動きに対して国民が影響を及ぼすことができる機会のひとつが選挙です。では国民は、何を基準に大切な一票を行使するのでしょうか。 共産主義や社会主義などの極端なイデオロギーは、さすがに今では影響力を失い、自由民主主義が主流となっています。しかし、その中にも経済発展を追求し小さな政府を志向する新自由主義的な考え方(保守)と、社会保障を重視し大きな政府を目指す社会民主主義的な考え方(リベラル)があります。アメリカの経済学者ダウンズによると、この2つの考え方を両端に置いた線上に、各政党のイデオロギーが分布しています。イデオロギー。専門家でなければ口にすることさえ滅多にない言葉かもしれません。私たちは選挙のたびに、いろいろな政策や主張を比較し、最も良いと思える政党や候補者を選びます。この「最も良い」という判断の基礎となる価値観がイデオロギーです。日本では政党や政策の対立軸が曖昧になり、イデオロギーを声高に論じることが少なくなりましたが、投票行動や政治意識をじっくり分析すると、現代日本人のイデオロギーが見えてきます。政治を科学的に捉える投票行動から探る日本人のイデオロギーTSUKUBA COMMUNICATIONS05

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