TSUKUCOMM-35
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望んでいるのは、まず勝つこと。勝てばどんな勝ち方でも文句はない。負ければ、どんなに惜しい負け方でもダメです。それを選手たちに理解させます。試合が終わって、ファンに喜んで帰ってもらえたか、今日は納得していないなとか、そういうことは選手も実際に感じますから、それは伝えやすいということはあります。永田●球団には選手以外の職員やスタッフもいるわけですが、そういう人たちのモチベーションも上げなければなりません。王●我々はもはや勝ち負けだけではお客さんを呼べるとは思っていません。年間に140以上も試合をしますし、テレビ放送もあります。営業の人たちが企業などに売り込みに行ったり、何とかしてチケットを買ってもらう、そういう地道な活動のおかげで球場にお客さんがたくさん来てくれる。ユニフォームを着ている者は、そのことを理解しなくてはいけません。我々が気分よく野球ができるのは、営業や他の人たちの日頃の苦労があってこそだとわかった上で、試合に臨ませるように心がけています。林●選手としては、球場で良いパフォーマンスをすることが第一ですが、どんなに野球がうまくても、他のことは何も知らないのでは、ファンや地域との交流はできません。教養があり人間性がしっかりしていること、つまり人としての模範になることが、一番のサービスだと思います。選手は将来、指導者になったり、野球とは違う道に進むこともありますから、そういう意味でも人間性は大事です。そのことを踏まえて選手と接しています。大学のトップというのは、野球の監督と似たところもありますが、やるべきことの範囲はずっと広がります。私の大学の最大のミッションは選手の養成ですが、学生生活、研究、安全、地域交流、国際化など、いろいろなことを考えます。幸い、学生や教職員もよくついてきてくれています。野球をずっとやってきて、海外での経験もたくさんあることが、学内外で良い人間関係をつくるスキルに結び付いているのかもしれませんね。■変化を拒まない姿勢永田●ところで、野球が人気スポーツであることは変わらないと思いますが、日本や台湾、そして世界の野球界が、これからさらにどういう方向に発展していくのが望ましいとお考えですか。王●やはり見る側が求めるのは、例えば大谷翔平選手のような、スーパーな選手です。ずば抜けた人が現れると全体が盛り上がるんですよね。ですから、そういう選手を生む土壌をつくっていきたいと考えています。それには、プロに限らず野球全体として、選手も指導者も、もっと高度で科学的な練習方法を導入することだと思います。野球というのはおかしなもので、ピッチャーからバッターまでの距離、ホームから1塁までの距離、これはもう100年ぐらい変わっていませんが、その中での人間同士の戦い方は、我々の時代よりもずっと複雑になっています。ピッチャーの球種が増えて、バッターもそれに対応する。ルールは変わらなくても、方法論や技術は劇的に変化をしていますし、これからもそれは続くと思います。永田●よく理解できます。大学をとりまく環境もダイナミックに変化していますが、要は良い研究をすること、新しいものを生み出すこと。それなしに、どんなに教育を謳おうが、全く意味がありません。環境や手法は変わってもルールは同じです。スポーツと違って、我々には明白な勝敗はありませんが、結果がすべてという意味では似ています。何日も寝ずに研究しても、別の人が先に成果を出してしまったら、その努力はノーカウントなんです。林●台湾野球界の最大の問題は、アマチュアとプロの仲が良くないことです。日本も以前は同じでしたが、今はうまくいっています。それは、プロ野球側が、アマチュア野球や学生野球が人材育成の基本だということに気付いたからだそうですね。台湾の野球はまだそこまで理解していないと思います。王●お互いに情報を交換して、育成も力を合わせてやっていくのが良いですよね。特に台湾の場合は、日本に比べれば野球人口が少ないですから。でも台湾には運動能力の優れた人が多い。そういう人たちを選抜して集中的に鍛えれば、かなりのレベルまで上げられると思います。日本との国際交流試合も刺激になると思いますが、まず国内で、こんなチーム、選手を育てようという共通の目標を持つことが重要ですね。それにはやはり、社会全体で育てることです。選手たちに意欲があっても、社会がそれを12

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