TSUKUCOMM-35
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 シュッ バン、シュッ バン。静寂の和室に、短い摩擦と力強く床を打つ音が響く。手塚亮太さんが払い手を一人繰り返す、部活前の自主練風景だ。競技かるたは小倉百人一首の上の句を聞き、対戦相手より速く正しく下の句の札をとって最終的に自陣の札をなくした方が勝ち。規定の横87cmの範囲に自陣と敵陣に25枚ずつ、それぞれ3列に置いた札から瞬時に見つけ、先に触れるか範囲の外に払い出した方が「とった」ことになる。このため「払い手」はプレイヤーにとって重要な技となる。中学では高校生の部活に混じって腕を磨き、高校では競技かるたの甲子園とも言われる憧れの舞台、全国高等学校かるた選手権大会で準優勝した。しかし高校2年でA級を取得してから、なかなか入賞を手にすることができなかった。 個人戦になると緊張から思うように体が動かない。それを克服できたのは、大学の歌留多部で先輩やOBとレベルの高い対戦を重ねたこと、そして実戦の中で「気持ちを入れる」という集中のスイッチを見つけたことだった。現在の手塚さんの強みは勝負どころの集中力。「才能はない」と本人はいうが、1試合90分、それを1日最大6試合勝ち続けることは、それこそ非凡だ。 「大会中は高揚しているので、疲れは感じません。終わったとたんにどっときますけど」という右足の甲には、札に向かう間、姿勢を保つためにできたコブがある。 競技人口は約100万人、その男性トッププレイヤーが名人、女性がクイーンとなる。個人戦ではA級トーナメントの優勝を淡々と狙いつつ、最も力を注ぐのは8月の大学選手権。「団体戦では仲間が奮闘している姿や、試合中の応援のおかげで実力以上の力が発揮できる」という。 心理戦の要素が大きい競技かるたでは、感情を抑える時間が続く。だから勝った時にみんなで喜びあえる団体戦が、断然すきだ。19歌留多部ユニフォームデザイン先輩から受け継いだ使いこまれた札第23回全日本大学かるた選手権大会2回生の部準優勝、第1回全国競技かるた福島大会(公認)準優勝、第70回全国競技かるた東京東会大会3位。気迫の攻めがるたに「普段と人が変わる」と言われるという。全日本かるた協会A級5段。好きな授業は倫理学。人文学類3年 手塚亮太さん 歌留多部競技かるたは大学から始める人も多く、僕らの先輩は初心者で入部して在学中にA級入賞しました。かるたの世界は奥深くて、腕が上がるほど夢中になれます後輩にひとこと集中力を磨く生

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