TSUKUCOMM-35
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 睡眠不足気味だと太るという経験則に思い至る人は多いかもしれません。それは、十分な睡眠時間をとっている人に比べると、睡眠不足の人は、太りやすい嗜好性の高い高カロリー食品をとる傾向が高いからと説明されています。疲れていると甘いものが食べたくなるのと似ていますね。しかし、睡眠不足と食物の嗜好とを結びつける生理的な仕組みはわかっていませんでした。 本学国際統合睡眠医科学研究機構のミハエル・ラザルス准教授らの研究グループは、睡眠量、それも特にレム睡眠が減少すると、ショ糖や脂質など、肥満につながる食べ物の過剰摂取が引き起こされる原因の一端を明らかにしました。 睡眠はレム睡眠とノンレム睡眠で構成されています。いわゆる夢を見ているのはレム睡眠状態のときで、体はぐったりしていますが、脳は活発に動いています。研究グループは、レム睡眠だけを特異的に減少させたマウスを準備し、その摂食行動を観察しました。すると、レム睡眠が不足したマウスでは、ショ糖と脂質の摂食量の増加が確認できました。 次に、遺伝子操作と化学物質を組み合わせることで、脳の前頭前皮質という部分の神経活動を抑制したマウスでは、レム睡眠量が不足してもショ糖の摂取量は増加しない一方で、脂質の摂取量については増加が見られました。 このことから、睡眠不足の状態にあるとき、いわゆる「太りやすい」甘い食べ物を摂取したくなる欲求は、前頭前皮質の指令によるものである可能性がわかりました。今後、太り過ぎの予防や治療法の開発につながるかもしれません。 アルペンスキーの大滑降は冬の競技スポーツの花形です。アイスバーンのようになった斜面をクラウチングスタイルで豪快に滑り下りるとき、最高速度は時速120キロにも達するそうです。 苦しそうなクラウチングスタイルを取るのは、空気抵抗をできるだけ減らすためです。そこで、どのような姿勢だと空気抵抗が少ないか、スーツの素材の影響はどうかなど、レーサーを実験風洞に入れた風洞実験が行われてきました。しかしこれまでの風洞実験だけでは、体の各部位にどのくらいの風圧がかかるかは測定できませんでした。 本学体育系の淺井武教授、洪性賛(ホンソンチャン)助教はエクサ・ジャパン株式会社の伊集院浩一技術ディレクターとの共同研究により、筑波大学スポーツ流体工学実験棟に設置されている低速低乱風洞実験装置と筑波大学情報メディアセンタークラスタサーバーの数値流体解析システムを用いて、クラウチング姿勢におけるレーサーの速度と全体の抗力と部分的な抗力の関係を明らかにすることに成功しました。その結果、体の各部位が受ける圧力は、下腿部(~50%)、上腕部(~15%)、頭部(~12%)、大腿部(含む臀部)(~9%)の順になることがわかりました。このデータは、今後、新型ダウンヒルスーツの開発や選手の体力強化などに活かされそうです。睡眠時間が減ると甘いものがほしくなるのには理由があるアルペンスキー選手は下腿部で空気抵抗に耐えるRESEARCH TOPICS淺井武 教授ホン・ソンチャン 助教ミハエル・ラザルス 准教授TSUKU COMM 25

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