TSUKUCOMM-35
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きこもりは、その典型なのです。 ということは、治療のカギは対話を開くこと。患者との信頼関係を築くだけで、かなりの改善がみられるようになります。「人薬(ひとぐすり)」という言葉がある通り、結局、人を癒すことができるのは人の存在。むしろ、薬や精神療法だけで同じような効果を得ようとしても、簡単にはいかないでしょう。関わることが毒になってしまう人もいますが、それは即ち、人が人に変化をもたらすことができるという証明です。 そこで目下、取り組んでいるのが「オープンダイアローグ」という手法です。フィンランドで開発された、統合失調症のための画期的な治療方法で、医師と患者だけでなく、医療者のチーム、患者、家族がともに対話し、そこで生じる相互作用によって自然に治癒が起こります。これを引きこもりなどの社会不適応状態の治療・支援に応用しようとしています。実際に臨床現場に取り入れてみて、その効果に手応えを感じています。■新しい精神医療に向けて SNSなどが普及し、外へ出ることなく交友範囲を広げることが容易になりました。反面、相手への気配りが先に立ち、正直に気持ちを吐露することを難しくもしています。やはり、人と人とが直接対話することに意義があります。オープンダイアローグは、医療機関や特別な施設でなくても、一定の知識とスキルを持ったファシリテーターがいれば実施できるので、コミュニティの中で精神を癒す支援を広げていくことが可能です。 精神科医になって診療を始めた頃、精神疾患のある人も自分とそれほど変わらないことに気付きました。だからこそ、精神医学の中では周辺領域とされる、社会不適応状態にきちんと向き合う必要があるのです。大学に研究室を構えたことで、研究や診療活動の幅がさらに広がりました。この環境を生かして、オープンダイアローグの手法を確立し、そこに携わる人材の育成を進め、日本に定着させることが、臨床家としてのライフワークです。直接対話することに意義がある聴HEADLINETSUKU COMMINTERVIEWPROFILE1961年 岩手県生まれ1990年 筑波大学医学専門学群環境生態学卒業 医学博士爽風会佐々木病院精神科診療部長(1987年より勤務)を経て、2013年より筑波大学医学医療系社会精神保健学教授。また、青少年健康センターで「実践的ひきこもり講座」ならびに「ひきこもり家族会」を主宰。専門は思春期・青年期の精神病理、および病跡学。さいとうたまきTSUKU COMM 07

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