TSUKUCOMM-36
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■自由な「クレープといちごソース」 整然と準備された調理室も、エプロン姿の男子が40人も集まればカオスです。落ち着かない雰囲気の中、植村先生は食材の説明や注意事項を簡潔に、でもしっかりと伝えます。それから一斉に調理開始。各班に分かれて、材料を揃え、事前学習のプリントを確かめながら調理に入ります。特に指示がなくても、生徒たちはあまり戸惑うこともなく、どんどん作業を進めていきます。 中学で最初の調理実習は「クレープといちごソース」。包丁は使いませんが、湯せんや泡立てなどの工程もあり、意外とチャレンジングなメニューです。へらと泡立て器と箸、卵と牛乳と小麦粉を混ぜるのに使う道具のチョイスもグループによって様々で、進捗にも少しずつ差が出てきました。 クレープを薄くきれいに焼くのはなかなか大変です。両面をきちんと焼いた円形のものから、どちらかというとスクランブルエッグに近い感じのものまで、作る人の個性が現れます。想定していた完成品は、クリームといちごソースをクレープで包んだものでしたが、各自が好きなだけクリームとソースをかけて食べるフリースタイルになったグループもあり、試食会は大いに盛り上がりました。 植村先生は、冒頭のレクチャーの後は各グループを回って、けがや事故のないように目を配り、できあがったクレープを写真に撮って記録します。でも調理のやり方や仕上がりを細かく指導はしません。生徒の中には、毎日のお弁当を自分で作るような「料理男子」もいれば、小学校で家庭科を経験していない帰国子女や、実技は女子任せにしていた者もいます。まずは楽しい体験をして、家庭科に対する敷居を下げることが大切です。中学3年のテーマ学習で調理を選択するグループは、自分たちで献立を決め、先生方に振る舞えるほどの腕前に成長します。■追い風と向かい風を受けて 男子校での調理実習もさることながら、男性の家庭科教員はまだまだレアな存在でしょう。植村先生自身も、中学・高校では男子と女子がそれぞれ技術科や体育科と家庭科に分かれて授業を受けた世代。男女共修は、女子差別撤廃条約への批准という社会的な追い風の中で実現しました。当時、植村先生は社会科の教員免許を持っていましたが、これから家庭科のニーズが高まると考え、大学院に入り直して家庭科の免許も取得しました。学生時代の一人暮らしで、生活技術の必要性を実感したこともきっかけでした。 中学校では1993年、高校では1994年から、家庭科は男女共修になりました。けれどもそれ以前に、男性家庭科教員への抵抗感もあったようです。1992年に大阪で「家庭科教員を筑波大学附属駒場中・高等学校 家庭科・情報科植村 徹教諭本学には11の附属学校があり、それぞれの分野でわが国の教育をリードしています。各学校のユニークな先生や授業、行事などの活動を紹介します。何気ない日常に視線を向け生活者としての学びを附属学校めぐり10 TSUKU COMM

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