TSUKUCOMM-36
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 数理物質系の小島隆彦教授と大学院生の塚越悠人さん(数理物質科学研究科博士前期課程化学専攻2年)らは、第一遷移金属であるニッケルと硫黄を含む物質からなる錯体を触媒として用いた、二酸化炭素の新しい光還元系を開発し、プロトンの還元による水素発生をほとんど伴わず、選択的に二酸化炭素(CO2)を一酸化炭素(CO)に還元することを実現しました。 自然界の緑色植物における光合成では、太陽光を利用して、水と二酸化炭素から、最終的にグルコースなどの有機物を生産することで、太陽光エネルギーを化学エネルギーへと変換し貯蔵しています。光エネルギーを化学エネルギーへと変換する「人工光合成システム」の技術を確立できれば、化石燃料に過度に依存しないクリーンで持続可能な社会の実現に向けて大きな一歩が踏み出せます。しかしそのためには、極めて安定な化合物であるCO2を活性化し、有用な化合物へと変換する、高性能なCO2還元触媒の開発が不可欠です。高価な貴金属の金属錯体では、このような触媒活性を示すものが知られていますが、安価なニッケルや鉄などを用いた金属錯体触媒には、CO2を還元するよりも先に水を還元し、水素を発生させてしまうという難題がありました。 同研究チームは、自然界に存在する酵素の活性中心をモデル化したニッケル錯体を触媒に用いることで、高効率かつ高選択的にCO2からCOへ光触媒的に変換することに成功しました。 ピンポン球よりも小さいヒトの眼球には、複雑な構造と機能が詰まっています。レンズ(水晶体)が集めた光はいちばん奥にある網膜で像を結び、その光信号は視神経に送られます。網膜を眼球の内側に押さえつけているのが、眼球内を満たしている硝子体(しょうしたい)というゲル状の物質です。外からの衝撃や老化、炎症などによって状態が変化すると、網膜にさまざまな病気を引き起こします。そのため、硝子体を取り除く硝子体手術が数多く行われています。 医学医療系の岡本史樹講師は、眼科の専門医として、年間数百件もの硝子体手術をこなしています。除去された硝子体は再生しませんが、やがて代わりの液体で満たされます。しかし除去した直後は、網膜を眼球の内側にしっかり押さえつけておくために、シリコンオイルやガスといった補完材料を注入します。ところがこれらは生体適合性が低い上に、注入したオイルやガスが偏らないよう、術後数日間はうつ伏せ姿勢で安静を保つ必要があります。生体適合性に優れた人工硝子体の開発が長年の課題でした。 岡本講師は同僚の星崇仁(すうじん)講師と共に、ゲルの専門家である東京大学の酒井崇匡(たかまさ)准教授と共同研究を行い、新たな分子設計により、生体内に直接注入可能な、含水率の極めて高い高分子ゲル材料を作製し、人工硝子体として有用であることを、ウサギを用いた動物実験で確認しました。今後、網膜疾患を含む眼科系疾患の治療に役立つことが期待されます。世界で初めて長期埋め込み可能な人工硝子体を開発微生物の酵素を模倣した新しい触媒系で人工光合成に成功RESEARCH TOPICS岡本史樹 講師小島隆彦 教授(左)と塚越悠人さんTSUKU COMM 19

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