TSUKUCOMM-36
5/28

■不思議な構造の「プルシアンブルー」 プルシアンブルーはその名の通り、濃青色の顔料です。300年ほど前にドイツで発見され、以来、絵画や陶磁器の彩色に使われてきました。日本でも、伊藤若冲や葛飾北斎など江戸時代に活躍した画家たちが使い始め、その美しい青色が評判になったと言われています。 このプルシアンブルーが科学的に注目されるようになったのは、ここ数十年ほどのこと。特異な結晶構造が明らかになり、機能材料としての様々な可能性が示唆されたのです。それは、鉄イオンがシアノ基で立体的な格子状につながれた、ジャングルジムのような構造でした。さらに、鉄イオンの価数を変えたり、鉄を他の金属に置き換えるなど、組成を変化させた類似体にすると、磁性材料や電子材料としての性質が現れます。 それらの新たに見出された可能性のひとつが、蓄電池の電極としての用途です。ジャングルジム構造の中の空間に、ナトリウムイオンやリチウムイオンを充填・放出することによって、電池として機能します。汎用的な電極材料ではありませんが、プルシアンブルーは構造がはっきりわかっていて、電池特性の発現メカニズムもシンプルですから、研究対象には最適です。より良い電池特性を得るために、材料としての基本的な性質(物性)をきちんと特定しようと、研究を進めています。■電池を学術的に突き詰める リチウムイオン二次電池(蓄電池)は、充電時間や電池容量、耐用年数などに優れ、モバイル機器から電気自動車まで幅広く普及しています。しかしながら、急速な産業化の一方で、充放電現象の基本的な理論や仕組みの解明は遅れています。性能向上や小型化・低コスト化のための開発競争が激化する中、結果的に求められるスペックは得られていても、それは経験則よるところが大きいのです。 大学の研究者としてやるべきことは、材料の持つ物性を突き詰めて理解し、様々な性能が発現する理由を明らかにすることです。そうすれば、望む性能に到達するための道筋も、理論的な限界も、自ずと見えてきます。電池に対する要求レベルはこれからますます高まりますから、結局はこういったアプローチが不可欠になるはずです。 プルシアンブルーを電池材料として研究する例は多くはありません。しかし実用化を目指すというよりも、電池を学術的に捉えるにはむしろわかりやすい材料として、電池特性とそのメカニズムを詳細に探るためのいろいろな実験を行うことが可能です。実際に、新しい知見が着実に蓄積されつつあります。着実な理解から導かれる革新的エネルギー技術携帯電話やパソコンなどのモバイル機器は、もはや日常生活の必需品です。それらは、高性能で小型化された電池があるからこそ、製品として完成され、普及してきました。知らず識らずのうちに、私たちの暮らしの中で重要な役割を果たしている電池。しかしその性能が発現するメカニズムは、必ずしも十分に解明されているわけではありません。そこに使われる材料の性質を深く理解することにこだわり、その先の新しい技術を見据えます。数理物質系守 友 浩教授Yutaka MoritomoTSUKU COMM 05

元のページ  ../index.html#5

このブックを見る