TSUKUCOMM-36
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■電池を超える新技術へ すでに大きな市場のある電池の研究は、産業界のニーズに沿った形で目標が定まっていきがちです。研究しやすいとも言えますが、オリジナリティを発揮するには物足りなさもあります。そこで、全く新しいエネルギー供給の概念の提案も試みています。それが「熱発電」という技術です。数年前から温めていたアイデアを実験に移し、実現可能であることを示して、つい最近、発表しました。 熱発電は、電池の正極と負極の温度差(熱エネルギー)を電気エネルギーに変換して起電力を得るというものです。蓄電池には充電が必要ですが、熱発電では電極の間に温度差があるだけで発電が起こります。この温度差も、室温付近で数度の違い、つまり、工場の廃熱や太陽熱、さらには体温などでも十分。特別な環境や装置を用意しなくても電力が得られ、既存の電池技術を活用できるため、開発コストもそれほどかかりません。発電所の代わりとはいかないまでも、災害時や緊急用のポータブル発電機などにも使える画期的な技術です。 この研究でも、電極材料に用いたのはプルシアンブルー。熱発電材料としても有望であることだけでなく、より大きな熱起電力を得るための鍵となる物性や条件もわかってきました。越えるべきハードルはまだまだたくさんありますが、基本的な概念さえしっかり構築することができれば、この研究を出発点として、実用化に向けた研究開発が一気に進むと期待されます。■クールに粘り強く 実はこの熱発電の研究は、発案してからしばらくの間、放置されていたテーマでした。当初、すぐに実験にとりかかり、考え方が間違っていないことは確かめました。しかしその時に得られたデータは、思ったほど良い数値ではありませんでした。どんなデータをどんな方法で調べるのが適切なのか、わからなかったのです。試行錯誤はしたものの、同じ実験でも、やるたびに違う結コバルトプルシアンブルー類似体LixCo[Fe(CN)6]yの結晶構造。左図は完充電時、右図は完放電時を示す。大きな赤丸、小さな青丸、小さな赤丸はそれぞれ、リチウムイオン、コバルトイオン、鉄イオンを示し、コバルトイオンと鉄イオンをシアノ基がつないでいる。06 TSUKU COMM

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