TSUKUCOMM-36
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果が出るなど、研究を続けていく見通しが立ちませんでした。 考えてみればこれは当然のことです。前例のないテーマなのですから参考になる資料も存在しません。しかも、熱というのはそもそも精密に測定することが難しいものです。数年経って、綿密に設計した測定装置を使って、再び実験にチャレンジしたところ、最初のデータよりも格段に良い数値が安定して得られ、研究は前進しました。 このような挫折と再開の繰り返しが研究のスタイル。行き詰まった時はいつまでも悩まずに一旦中断する、その見極めはとてもクールです。でももちろん、諦めるわけではありません。他のテーマに取り組みながら、気持ちと知識をリフレッシュし、再開のタイミングを待ちます。アイデアに自信があるからこそ、そうやって粘り強く探求し続けることができるのです。■データにこだわり、論文にこだわる 物理学者として最も関心があるのは、材料の物性です。実用的かどうかではなく、新しい物性そのものが興味の対象ですから、あらゆる材料が研究テーマになり得ます。プルシアンブルーの特殊な構造と物性の面白さに惹かれて、電池の研究を始めましたが、電池特性も、あくまでも物性のひとつとして捉えています。 物性というのは数値で表すことができ、かつ再現性があること、すなわちデータの信頼性がなによりも重要です。研究室の学生に対しても、データを確定させることを、まず指導します。これは研究という営みの基本であり、研究成果としての論文を書く上での根拠となるものです。 ですから、論文を書くことにもこだわります。データが確定でき、それに基づいて論理的な考察が展開できた証しが論文であり、それこそが研究の価値です。データを積み重ねて材料の物性を徹底的に理解し、応用の可能性や開発の指針を与える基本原理を提案する研究が、次の革新技術の拠り所を築きます。聴HEADLINETSUKU COMMINTERVIEWPROFILE東京大学理科一類に入学、工学部材料学科で学ぶも工学部になじめず、大学院理学研究科物理学専攻に進学し、理学博士を取得。日本学術振興会特別研究員、名古屋大学大学院工学研究科助教授等を経て、2005年より現職。一貫して強相関酸化物の構造物性や物性開拓研究に取り組む。本学着任後は、物性実験家の視点からエネルギー物質科学の開拓に注力。エネルギー物質科学の深化と革新的デバイスの提案・実証を目指す。もりともゆたかTSUKU COMM 07

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