TSUKUCOMM-37
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 辻川美乃利さんは、出身地大阪で行われた第101回日本陸上競技選手権大会で、自身初となる全国優勝を成し遂げ、笑顔で表彰台に立った。「2ヶ月前に、ボロ負けしたのが逆に良かった」と勝因を語る。 前哨戦として挑んだ4月の大会で、自己ベストを10mも下回る記録で予選落ち。距離が伸びないとこぼす辻川さんに、「数字ばかりにこだわってない?」という友人の指摘が響いた。距離はあくまで結果、本質は自分の動きにある。わかっていたつもりだったのに、改めて気付かされた。そこから円盤投の動作ひとつひとつを徹底して見直し、そうして挑んだのが前出の選手権だ。「試合中、他の選手が投げている間も、理想の動きをイメージしながら、次の1投に集中して試合に臨むことができました」と振り返る。 小学生の頃は体育で褒められたことなどなかった。中学では希望する部活に入れず陸上部に入部。肩の強さから砲丸投を勧められた辻川さんは、小さな大会に出場し、思いがけず入賞した。続く秋の大会では大阪府で4位。「私でも、活躍できるスポーツがある!」と投てき競技が好きになった。高校から始めた円盤投では、インターハイで6位の成績を挙げた。憧れていた本学の陸上競技部を見学して、インターハイや大学選手権で優勝経験のある選手ばかりで驚いた。そして「いつか、この一員になりたい」と思ったという。 辻川さんにとって進むべき方向に迷いはない。卒業後は競技を続けながら、大学院で健康教育学や学校保健学を学び、特別支援学校の教諭を目指す。幼い頃から障がいのある友人と過ごすことが多く、学校生活、とりわけ体育で感じるもどかしさを見てきた。「障がいがあっても、体育が楽しめたら」という思いがずっとある。 円盤は追い風よりも、向かい風の方が飛ぶ。辻川さんの投げた円盤は、風を捉えて浮き上がり、気持ちよさそうに素直に飛んでいく。自らの動きが生み出す遠心力と、風と円盤が作り出す揚力で飛距離は伸びる。針路を定め進む、辻川さんの姿そのものだ。14 TSUKU COMM競技で使うディスクは1kg、手のひらより少し大きめ専門種目は円盤投と砲丸投。第101回日本陸上競技選手権大会 女子円盤投で優勝、9月には52m56の記録で自己ベストを更新。理想とする選手は「陸上部の先輩方」、競技をどこまでも追究する姿がかっこいい。好きな授業は障害科学類の専門科目、知らないことばかりだから。体育専門学群4年 辻川美乃利さん 陸上競技部勉強でも部活でも、自分から求めれば多くのことが学べます。自由な環境だからこそ、主体性をもって積極的に行動することが大切です後輩にひとこと写真:YUTAKA/アフロスポーツ向かい風に乗る

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