TSUKUCOMM-37
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 海岸に行くと独特の匂いがします。磯の香りとも称されますが、その大本は、海のプランクトンが生成して放出している硫化ジメチルという揮発物質です。この物質には、大気上空で雲を作るはたらきもあります。そのため、地球の気候システムを理解する上では、海洋から大気へ放出される硫化ジメチルの放出量を把握することがきわめて重要です。 生命環境系の大森裕子助教は、国立環境研究所などとの共同研究により、独自の観測システム(PTR-MS/GF法)を用いて、海洋から大気への硫化ジメチル放出量の実計測に成功しました。大森助教らは、海洋研究開発機構所有の海洋調査船「白鳳丸」の研究航海に参加し、太平洋の亜熱帯域から亜寒帯域に及ぶ広い海域で、各地点における硫化ジメチル放出量を観測しました。調査では、観測用のブイ(プロファイリングブイ)を海洋に設置し、海洋表面直上の大気中の硫化ジメチル濃度の実測値と気象データから、硫化ジメチル放出量を算出しました。その結果、従来の計算方法を用いた硫化ジメチル放出量の推定値は、今回の実測値とほぼ一致することが確認できました。 この方法による観測を広く実施していくことで、大気への硫化ジメチル放出量測定の精度が向上し、気候システムモデルの精緻化に貢献できると考えられます。 国立がん研究センターによれば、たばこを吸う同居人からの受動喫煙で肺腺がんになる危険性は約2倍にもなるといいます※。受動喫煙は、家庭内のみならず、職場、飲食店、さらには路上でも起こり得ます。受動喫煙が及ぼす影響としては、これまでに各種がんのほか、心筋梗塞や脳卒中などのリスクが高まることがわかっています。 医学医療系の山岸良匡准教授らの研究グループは、受動喫煙によって大動脈疾患(大動脈解離・大動脈瘤)による死亡が増加することを、世界で初めて発表しました。喫煙が大動脈疾患を引き起こす主要な要因のリスク因子の一つであることは、すでに知られています。しかし、大動脈疾患と受動喫煙との関連については、これまで明らかになっていませんでした。 今回の研究は、1988年に開始された大規模地域コホート研究 JACC Studyのデータを解析して判明したものです。この調査では、全国45地区の住民(研究参加者は計48,677人)を対象に、質問紙によって生活習慣を把握しつつ、平均16年間にわたる追跡がなされました。山岸准教授らは、その調査結果を基に、受動喫煙の程度が高いグループは、受動喫煙の程度が低いグループと比較して、大動脈疾患で死亡する割合が2.35倍も高いことを見出しました。しかも、家庭外での受動喫煙の影響の方が、家庭内での影響よりも強いことが示されました。 現在の日本ではまだ、受動喫煙対策が十分ではありません。本研究を機に、受動喫煙の有害性についての認識がさらに広まることが期待されます。受動喫煙により大動脈疾患死亡が約2倍に増加海洋から大気への硫化ジメチル放出量の実計測に成功~磯の香りが雲を作る~RESEARCH TOPICS山岸良匡 准教授大森裕子 助教※国立がん研究センター 社会と健康研究センター 予防研究グループHPより (http://epi.ncc.go.jp/jphc/outcome/309.html)PTR-MS/GF法に使用したプロファイリングブイ。海洋直上の大気を採取するために、プロファイリングブイには、高度5cm~2mまでの高さに大気採取用インレットを設置してあるTSUKU COMM 21

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