TSUKUCOMM-37
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染色などをすることなく、生きたままの集団の動きをリアルタイムで観察できるようになりました。また、集団を構成する個々の細胞に着目することも可能です。このようなイメージング解析技術でも、このプロジェクトは世界トップクラス。例えば歯の表面で微生物がどんどん増える様子や、薬剤を入れたときに、集団内で爆発のようなことが起こったり、細胞が外側からはがれていく様子などを、三次元で捉えることができます。 百聞は一見に如かず。画像や動画は、誰にでも直感的に理解できる形で研究成果を示すために重要なツールです。そのベースとなる解析技術の開発は、これからの微生物研究には不可欠な要素です。そこで必要なのは生物学に加えて物理学や工学。さらに、コミュニケーションを理解するためには、化学や情報学の知見も駆使しなくてはなりません。研究プロジェクトには、そういった分野の研究者も含まれています。■微生物とのスマートな共生に向けて 微生物を使った水処理は1900年代の初めから行われていますし、最近では花粉症対策として乳酸菌を摂取するなど、特定の微生物を体内に取り込んだり排除したりして健康増進を図ることも盛んです。しかし私たちはまだまだ微生物の本当の能力を知りません。下水にしろ、腸内にしろ、彼らは自分たちが住み良い環境にしたいだけですから、人間が求めるレベルまで力を出す必要はないのです。 微生物の言語を理解したり、外的な刺激に対する反応を知ることは、人間が彼らとコミュニケーションする術を手に入れること。集団の一員のようにして微生物にメッセージを届け、本来の力を発揮させたり制限できるようになれば、有用か厄介者かという両極端な扱いではない、もっとスマートな微生物との共生関係が築かれるはずです。 微生物を知れば知るほど、その生存戦略の緻密さに圧倒されます。生命とは何か、どのようにして維持していくべきか、最も単純で身近な生物が教えてくれることは、深い示唆に富んでいます。PROFILE1995年 広島大学大学院工学研究科博士課程修了 博士(工学)1996年に筑波大学に着任して以来、微生物代謝やバイオフィルムに関する研究を続け、2013年より現職。その間、国立環境研究所、米国Dartmouth Medical Schoolの客員研究員等も務める。2015年に開始したJST/ERATO野村集団微生物制御プロジェクトでは、研究総括として、集団微生物の全貌解明に挑むとともに、若手研究者の育成や分野横断的な研究体制の推進にも力を注いでいる。のむらのぶひこ07

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