TSUKUCOMM-37
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た。打開的に新しいことにチャレンジするというのは、青年座に脚本を送った時と同じですね。それが優秀賞をいただいて、程なくテレビの仕事に関わるようになりました。 舞台、映像それぞれに面白さがあって、舞台では自分が書いた劇を客席で見ながら、人々の反応をすぐそばで感じることができます。映画はスケールの大きなものが描ける可能性があるし、テレビは脚本を書いてから作品になるまでが短いため、今の関心をそのまま届けられます。藤井さんにとって脚本家とはどんな仕事ですか? 誰でも、人との関係のなかで、言いようのない不安やもどかしさ、苛立ちや後悔を感じることがあると思います。そういった感情はいつまでも心を占めて、とても苦しい。私が感情を台詞や場面で表現したときに、ご覧になった方が共鳴したり、心に抱えていることとの共通点を見つけて少しホッとしたり、答えが見つかるような感じを味わってくれたらと、そんな風に思いながら書いています。私はこれを、「感情に名前がつく」という言葉で表現するのですが。14時間休みなくキーボードを叩き続けて腕がパンパンになったり、書き上げてから十数回も書き直すこともあります。それでも続けられるのは、ドラマや芝居を通じて誰かの役に立つのではないかと思えるからかもしれません。 脚本はフィクションの世界ですが、真実のない突飛な想像には、誰も共感してくれないでしょう。実証されたものの上にしか、推測は成り立ちません。大学で西洋史を学び、事実に基づいて検証するという手法を身につけたことは、この仕事をする上での大きな財産になっています。歴史を専攻しようと決めた高校3年の私に「よくやった」と言いたいです。筑波大で学ぶ後輩たちに、是非メッセージを。 小説『明治ガールズ』にも書いたことですが、人が成長する過程では、小さい丸から突然大きな丸になれるわけではなくて、いびつになってしまう時が必ずあります。そういう時期には、当然反発も買うし、熱中するあまり他のことが疎かになってしまうこともあります。しかし、それも通過点と思って、不恰好になることを恐れず、チャレンジして欲しいと思います。今の「この1年」を、過去に勉強や仕事で飛躍した「あの1年」のように充実させねばという意味で。装画 : いつか/KADOKAWA刊初の小説『明治ガールズ 富岡製糸場で青春を』とその取材資料の一部TSUKU COMM 09

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