TSUKUCOMM-39
13/32

■化学にじっくり向き合う 化学の先生になろうと決めたのは大学4年生の時。研究をすることは楽しかったものの、大学や企業の研究活動は、新しい発見をして誰よりも早く論文を発表する、という競争の世界であることを知り、自分には向いていないと感じました。がっかりはしましたが、自分のペースで好きな化学に取り組みたいと思い、目指したのが高校教師でした。中学生の頃からずっと、珠算塾で下級生の面倒を見ていた経験もあり、教えることには興味があったので、この選択に迷いはありませんでした。 教育となると、最先端の化学よりもむしろ、身の回りにある様々な化学物質の基本的な性質や、それらが実生活とどのように関わっているかを理解することが重要です。同じ化学でも、向き合い方が異なります。実験も、未知のことを探るためではなく、理論としてよく知られている現象を確かめることが目的ですし、授業という限られた時間の中で完結できるプログラムも求められます。ひとつひとつの実験は、どの理科室にもある器具や試薬を使った定番のものですが、それらは、物質が変化することや物質間のつながりが実感できるように、うまく組み合わされています。そこには、新しい実験や教材を開発することとはまた別の工夫が詰まっています。■化学実験に自信を持って 古寺先生は、高校化学の実験実技に自信があります。教員になりたての頃、教科書に載っていることは、全部自分で試してみようと思い、膨大な量の実験にチャレンジしました。実際にやってみると、そのまま授業で使えそうなものと、そうでないものがあることがわかりました。例えば、化学物質を工業的に製造するような大規模な反応では、高温高圧といった過激な条件や、手に入りにくい触媒を用いる場合があります。そういう実験は理科室でどこまで再現できるのか、なども検討しました。そうやって培った知見やスキルが自信の源です。 生徒の中には、化学オリンピックでメダルを獲得するような優秀な者もいます。彼らに理論で挑まれたらかなわないかもしれません。しかし、実験では負けないと胸を張ります。生徒たちもそのことはわかっていて、お互いのリスペクトがあります。そういう関係性も教師としての楽しみのひとつ。実験をする授業は、安全への配慮、準備や片付けも含めて、とても手間がかかるものですが、それさえもエネルギーに変えて、化学の世界を伝えます。那須和子副校長 本校は「自主・自律・自由」をモットーとし、生徒は皆、伸び伸びと高校生活を過ごしています。「授業」がその中心ですが、「基礎・基本」を大切にし、それぞれに特徴のある授業が展開されています。 特に「化学」は実験の多さが特徴です。古寺先生は長年本校の教諭としてご尽力され、多くの実験を通して、知識を「体得」することで生徒に伝えていきます。高校生に分かりやすく伝えるために指導方法の研究にも多くの時間を費やされ、休みの日には研究会を催し、学外の先生方とも幅広く交流されています。そして何よりも、生徒と共に活動されることが大好きな先生です。生徒と共に活動されることが大好きな先生化学実験PROFILEこでらじゅんいち三重県上野市(現、伊賀市)出身。東京都立富士高等学校、東北大学理学部化学第二学科卒業。東京都立清瀬東高等学校、東京都立小金井北高等学校、東京都立富士高等学校を経て2001年度より現職。趣味は合唱で中学生の頃から歌い続けており、化学よりも経験だけは長い。TSUKU COMM 13

元のページ  ../index.html#13

このブックを見る