TSUKUCOMM-39
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●ユーザーインターフェースと伝統工芸 故郷レバノン共和国では、日本は、クルマをはじめ工業製品の性能が良いことで知られています。留学先にこの国を選んだのも、テクノロジーと文化が融合しているというイメージがあったからです。私はレバノンの大学院でグラフィックアートと広告の勉強を終えた後、4年ほど広告デザインの仕事をしました。その間に、パンフレットやポスターより、WEBやサイネージなどを媒体としたデザインに可能性を感じ、自分のやりたい仕事は広告ではないと気づきました。学生時代の先生に相談したところ、筑波大に留学していたという話を聞き、私も本学への進学を考えるようになりました。今は、人間総合科学研究科の芸術専攻でユーザーインタフェース(UI)やユーザーエクスペリエンス(UX)をテーマにビジュアルデザインの研究をしています。 近い将来、テクノロジーは今よりもっと生活に欠かせない存在になって、様々な新しいデバイスが登場するでしょう。これらのデバイスを人に親しみやすく、使いやすくデザインするのが、UIやUXの役割。日本では、昔ながらの技術を現代の生活にうまく生かしています。例えば、和紙や木目を家具のデザインに取り入れたり、木版画や炭絵の技法を用いてシンプルでモダンなアート表現をしたり。これらにヒントを得て、自然の素材を活かした日本流のデザインをUI、UXに取り入れたいと研究しています。 昔ながらの、竹や藤で編んだ籠、漆塗りや金継ぎの器などは、丁寧に作られている上に自然の素朴さが感じられ、しかも日常使いの道具として役に立っています。実際に日本に来るまで、これほど伝統工芸の種類やデザインが豊かだとは知りませんでした。最新のテクノロジーは総じて平坦で冷たい印象があります。そこに伝統工芸の繊細さと温もり、使いやすさという視点を取り入れて、人と機械をつなぐモダンデザインを生み出したいと考えています。●地域性の魅力 クールジャパンといわれるようなアニメやマンガよりも、この国に古くからあって、暮らしに根付いている文化に、より興味があります。長野県の木曽平沢や福島県の会津で漆塗りを探索してみると、同じ塗り物でも、地域の風土や歴史の影響を受けていることがわかります。日本国内を旅行するときも、観光地を巡るより、できるだけ地元の人々の生活がわかる場所を訪れます。 レバノンから遊びに来たガールフレンドと京都に行ったときも、観光地を離れて地元の人が行く店に浴衣を探しに行きました。日本語もつたない外国人の私たちでしたが、お店の女性が喜んで迎えてくれて、浴衣の柄の種類や意味、みやげ用との違いなどを説明しながら1時間以上かけて一緒に選んでくれました。食事もレストランには行かず、市場で、「これは何ですか」なんて話かけながら、おばんざいを買って食16 TSUKU COMMレバノン共和国「金継ぎ」をモチーフとした、ラルフさんの作品Cedars of God、立ち枯れたレバノンスギに、キリスト像が彫刻されているベイルートで人気のクラブイベント、Factory Fridays' Party地域文化に親しみたいHeland筑波大学には、100を超える国から、約3千人の留学生が訪れています。このコーナーでは、本学の留学生から、出身国の自慢の場所や風景、食べ物など、多岐にわたって紹介していただきます。

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