TSUKUCOMM-39
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■コホート研究から見えるエンパワメント 生涯発達研究においては、特定の人々や地域をじっくり観察するコホート研究が不可欠です。研究者も世代交代しながら何十年も定期的な観察を継続する場合もあります。国際的な比較検証を行うために、複数の地域で並行して研究を進めますから、時間や人手はもとより、資金もかかる地道な研究手法です。 コホート研究で大事なのは、研究対象となっている人々が、そのことを意識しないようにすることです。そのために、地域のみんなを巻き込むような仕掛けを考えます。ボランティアを募ったり、イベントを企画するなど、コミュニティの活動として多くの人が主体的に参加できる場を創出します。 そういった場の中で、異なる世代間の関わり方や、人々の意識・行動の変化を観察します。高齢者が子どもと一緒に活動することで活力を得たり、自分たちでまちづくりをしているという実感を持つことで、地域全体が活性化される様子が、データとして見えてきます。 このように、人々が元気になることがエンパワメント、活力がわくという意味で、湧活と訳しています。自分一人で元気になろうとしてもなかなか難しいこともありますが、仲間や地域の力を借りれば、互いに元気を与え合うこともできます。コホート研究は、さまざまなエンパワメントの仕掛けを提案する機会にもなります。■健康施策につなげるエビデンス コホート研究から得られる調査結果は、社会科学系の研究では最も強力なエビデンスになります。先に行ったことが原因、後に起こったことが結果、という時系列がはっきりしているからです。調査対象になった人々とそうでない人々とで比較すれば、原因が結果に対してどのくらい影響しているかを科学的に示すことができます。 例えば、褒めて育てるほど思いやりのある子どもに育つ、というのは当たり前のように思われますが、実は科学的根拠はありませんでした。そこで、500人の親子を5年間観察し、些細なことでもたくさん褒めることによって子どもの自己効力感が増し、それが他人への思いやりに結びついていることを初めて示しました。同様に、子どもが3歳になるまでは母親が育児に専念すべきという、いわゆる「3歳児神話」が、まさに神話に過ぎないことも明らかにしています。一緒に過ごす時間の長さよりも、子どもとの接し方の質の方が、学童期における問題行動との相関が大きいことがわかりました。 このようなエビデンスは、国や自治体の施策にも反映されます。健康増進や介護予防が医療費の抑制に重要であることは感覚的に理解できても、具体的にどのような活動にどのくらいの補助をするかは、感覚で決めるわけにはいきません。いくつかのモデル地域でコホート研究を実施し、活動内容と医療費との関係を定量的に見極めることが、適切な施策を講じる鍵なのです。コホート研究では、オリジナルの体操やその音楽に合わせた歌詞作りなど、年代に関わらず、地域のだれもが参加できる企画のアイデアも重要なとなる。06 TSUKU COMM

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