TSUKUCOMM-40
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21 窒素の質量数は、通常は14です(窒素14)。しかし、質量数15の同位体「窒素15」もあります。太陽系全体の窒素15と窒素14の存在比は1:440です。 ただし、この比率は一様ではありません。窒素15の存在比は、太陽系誕生と同時に作られた固体物質である隕石や彗星においては高くなっている一方で、恒星や惑星の元となる星間分子雲では低いことが知られています。 計算科学研究センターの古家健次助教は、東京大学との共同研究により、このような窒素同位体の存在比異常が生じた仕組みを、希薄な星間ガスから密度の高い分子雲が形成される際に起こる化学反応のネットワークモデルを使った数値計算によって解明しました。 恒星や惑星の元となる星間分子雲は、星間ガスと星間塵(固体微粒子)から成っています。これらが何100万年もの時間かけてゆっくりと収縮し、46億年前、太陽系が生まれました。 このプロセスにおいて、分子雲にある窒素分子N2は、紫外線を受けると窒素原子に分解されます。このとき、窒素15の方が不安定なため、より多く分解されます。同時に、星間塵の表面ではアンモニア(NH3)などの氷が生成され、その中に分解された窒素原子が取り込まれます。この氷がやがて惑星の材料となりうる固体物質を形成していきます。このような反応が複合的に進む結果として、窒素15が、固体物質には多く、星間ガスには少なく含まれるという存在比異常が起こるわけです。 太陽系の歴史、宇宙の歴史の一端が、窒素という元素を通して見えてきました。「われわれは星屑でできている」という天文学者カール・セーガン博士の言葉が思い出されます。 飼育下のマウスは、天敵であるキツネのにおいを嗅ぐと、怖がって身をすくめる「すくみ行動」をします。キツネには一度も出合ったことがないので、これは、学習行動ではなく、生得的、本能的な行動です。 しかし、さまざまなにおいのうち、恐怖を喚起する特定のにおいに対してだけ、特別な反応をする仕組みはわかっていませんでした。国際統合睡眠医科学研究機構のリュウ・チンファ教授を中心とする国際研究グループが、その謎に迫りました。 研究グループは、キツネのにおいを嗅いでもすくみ行動をしないマウスの突然変異系統を見つけ、Fearless(怖いもの知らず)家系と名付けました。この家系では、刺激性化学物質などのセンサーである遺伝子Trpa1が働いていないことを発見しました。このセンサーは、たとえばワサビのつんとくる刺激に反応します。 この発見の鍵は、Trpa1センサーへの刺激を伝えるのが、嗅覚神経ではないことです。一般のにおいとは別ルートで、刺激が脳に伝わっていたのです。これは、従来の考え方を覆すものです。 キツネなどの天敵のにおいを伝えるのは、三叉神経節という神経でした。これは、顔の痛みなど(体性感覚)を伝える神経です。前述のワサビのつんとくる刺激も、いうなれば痛みに似た感覚です。痛みを避ける行動は、反射的なもので、学習する必要はありません。進化の過程で、この刺激を感じると「すくみ行動」をとって気配を消すようになった個体の方が、生存上有利だったのでしょう。今後、恐怖のような本能行動の仕組みに関する理解がさらに深まりそうです。天敵のにおいは学習不要―本能的な恐怖を引き起こす新規においセンサーの発見窒素の比率が教えてくれる太陽系の秘密―謎を解く鍵は太陽が生まれる前にあったRESEARCH TOPICSリュウ・チンファ教授(左から二人目)の研究チーム古家健次助教

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