TSUKUCOMM-41
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かるだけで泣き出していたような子供たちが、年長クラスになると、元気よく飛び込んだり、水を掛け合って遊ぶようになります。お母さんも一緒にプールに入って、同じ体験を共有します。体を動かすことだけでなく、水の冷たさなどの感覚や、思ったことをその場でストレートに伝えることができるのが、プール遊びの良さです。そういった直接的な体験が会話の題材になり、自宅へ帰ってからも保護者とのコミュニケーションを促します。■子供の全体像を捉える子供たちにとって、幼稚園は初めて自分の家や家族から離れて過ごすコミュニティ。この時期に、1対1の人との関わり、さらに、クラスや幼稚部全体の小集団との関わりをしっかりと身につけることが、学校や地域社会など、その先に広がるより大きな世界で生活していく上での基礎となります。もちろん最初は慣れるだけで精一杯です。自分の好きなものや場所を見つけながら、少しずつ、幼稚園を安心できる場所にしていきます。その中で、先生との関わりも築きます。幼稚部全体では、子供1~2人に対して1人の教員が指導にあたっていますが、必ずしも担任にはこだわりません。気に入った先生が一人いるだけで安心感が増しますし、その先生を軸に、他の先生や子供たちとも関わりが持てるようになります。一方、自宅と幼稚園とで態度や行動が変わることもよくあります。子供たちも、相手や場面によって見せる顔を使い分けているのです。また、些細な出来事が、その日の気分に大きく影響してしまうこともあります。ですから、自宅で、幼稚園で、どんなふうに過ごしているか、保護者との情報共有は欠かせません。そうやって、子供の全体像や成長の過程を互いに理解することが、指導にも生かされます。■広い世界への入口に知的障害と自閉症の両方を持っていること自体は珍しくありませんが、特別支援学校でも、そういう子供を専門に受け入れるところは極めて少ないのが実情です。一般の幼稚園や療育センターに通わざるを得ないケースがほとんどで、それぞれに試行錯誤を続けています。そこで2016年、幼稚部の有志教員で「知的障害を伴う自閉症幼児教育研究会」を立ち上げました。特別支援学校の教員、地域の施設で障害児のケアに携わる人々や障害児の家族など50名ほどが参加しており、様々な事例を共有し、地域との連携や支援のあり方を考えようと、勉強会などを精力的に行っています。障害のレベルは多様で、指導方法にセオリーはありません。それでも、こういった活動を通して、各施設の現状やニーズ、家族の悩みを知ることもでき、主導的な役割を担う特別支援学校として、情報発信の拠点となり、地域とのつながりをより深めるモチベーションになっています。幼稚部での3年間は、生活や学びの基礎を築く大切な期間です。通常学級の中で障害のある子供も一緒に学ぶインクルーシブ教育が注目されていますが、いつ、どのように学ぶかは、一様には決められません。とりわけ教育の初期段階では、少人数での丁寧な支援が大きな意義を持ちます。一人ひとりの子供に応じた指導の積み重ねがあるからこその成長が、次の選択肢を広げる。幼稚部の子供たちの姿は、そのメッセージを伝えています。副校長(左)と幼稚部主事の加藤敦教諭ひよこ組(年少組)の子供たちが作った作品 「何を思い、考えているのかな。」私たち教師は、子供の表情を見たり、声を聞いたり、一緒に遊んだりしながら、子供の思いを想像しています。子供が人に「伝えたい」と思うようになるには、自分の思いを大人にしっかり受け入れてもらう経験が大切です。でも、子供の思いが分からないこともたくさんあります。小石を水たまりに落とすことが好きな子供の横に行って、教師も一緒に何度も何度も小石を落として、何が好きなのかなと考えます。一緒に遊ぶ楽しさを味わってもらいたくて、寝っ転がったり、おぶったり、いろいろ方法を考えながら、関わっています。時には、これでいいのかと悩みもしますが、子供が答えを教えてくれるような気がします。髙尾政代 副校長思いを受けとめたい伝えたい」に11

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