TSUKUCOMM-41
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21 心不全は、癌に次いで多い日本人の死亡要因です。心筋細胞は再生できないため、心疾患により機能が低下すると心不全となり、それが悪化すると死に至ります。心臓移植に代わる新規治療法の開発が望まれています。 医学医療系(循環器内科学)の家田真樹教授は、マウスを使った研究で、筋肉を構成する線維芽細胞に3つの遺伝子を導入すると心筋細胞になることを発見していました。つまり、線維芽細胞の遺伝的な設計図を書き換える(リプログラミングする)ことで、心筋を蘇らせることができるのです。しかしこの方法では、1個の線維芽細胞から1個の心筋しか作れません。 それに代わる方法として有効なのが、心筋細胞だけでなく、血管平滑筋細胞や血管内皮細胞など、すべての心臓細胞の元となる心臓中胚葉細胞を作り、そこから各種の心臓細胞を作るというやり方です。心臓中胚葉細胞は増殖能があるため、たとえば心筋細胞を増やすこともできます。 心筋細胞を作るには、ES細胞やiPS細胞などの、何にでもなれる多能性幹細胞を利用する方法もあります。しかしこれには、複数の高価な液性因子(薬剤)が必要な上に、その工程が不安定で煩雑であることが課題となっていました。 今回、家田教授の研究グループは、心筋細胞で働いている58個の遺伝子を試したところ(スクリーニング)、ある1個の遺伝子が心臓中胚葉細胞への誘導を起こすことを発見しました。そして、その遺伝子(Tbx6)を線維芽細胞に導入し、心臓中胚葉を作製することに成功しました。このTbx6遺伝子は、これまで、体節(骨格筋、脊椎、骨)を形成する上で重要な遺伝子として知られていたものです。 今後、心筋梗塞や拡張型心筋症をはじめとする、様々な心臓疾患に対する再生医療への応用などが期待される研究成果です。太古の地球に生息していた動物の遺体が化石標本として保存されるには、多数の幸運が重ならなくてはなりません。その化石が発見され、研究者の目に留まり、正体が判明するまでには、ながい道のりが存在します。きっかけは、2017年6月、国立科学博物館地学研究部の木村由莉研究員が、化石の保管状況を見るために本学を訪れたことでした。案内をした生命環境系の上松佐知子准教授は、標本台帳に記載されていない正体不明の大きな化石あったことを思い出し、見てもらうことにしました。その化石を一目見た木村さんは、束柱類と呼ばれる大型哺乳類の右大腿骨だと判定しました。これは1000万~3000万年前に北太平洋沿岸に生息していた半水生の絶滅哺乳類です。研究チームを結成し、さらに調査を進めたところ、化石の正体については、本学の卒業生で束柱類の専門家である松井久美子さん(現在は九州大学博物館研究員)が、パレオパラドクシア属(学名は「古い謎」という意味)の右大腿骨であると同定しました。化学分析の結果、1000~1600万年前のものと判明しました。一方、この化石は、60年以上前に東京教育大学に委託され、束柱類のデスモスチルス類だろうと見なされたまま忘れられていたものでした。追跡調査をしてみると、福島県土湯温泉の砂防ダム工事現場から約65年前に見つかり、現地では「恐竜の骨」として知られていた化石であることがわかりました。パレオパラドクシアは、現生する動物との系統関係が不明なグループで、その詳しい生態も謎に包まれています。見つかった化石は、表面の保存状態が良いことから、筋肉の付き方などの研究が進み、生態解明に弾みがつくと期待されます。ミステリアスな化石は二度眠る―収蔵庫で見つかった好運な「古い謎」心臓再生治療に朗報―新たな心筋作製技術を可能とする遺伝子の発見RESEARCH TOPICS木箱に入った状態で見つかった化石ネズミのしっぽの線維芽細胞からTbx6遺伝子によって誘導された心臓中胚葉細胞。(スケールバーは100μm)パレオパラドクシアの復元図(足寄動物化石博物館の新村龍也さん作画)

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