TSUKUCOMM-41
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Branding紀元前5世紀のギリシャ彫刻の傑作「アルテミシオンのポセイドン像」のレプリカが、本学に2点あります。ひとつは、アテネ考古学博物館に所蔵されている真作から、ギリシャ政府が型を取って製作した石膏像で、大石膏室に置かれています。もうひとつは、その像を原型として、芸術学系の伊藤鈞教授(当時)が、国内有数の鋳造家らと共同して鋳造したブロンズ像です。1980年12月、大学会館講堂ロビーに展示され、翌1月に除幕式が挙行されました。その後、総合交流会館の開館や嘉納治五郎像の設置などに伴う移設を経て、現在は6B棟2階入口前で、威厳あるその姿を見ることができます。ところで、「アルテミシオンのポセイドン像」は本来手にしているべき武器を持っていません。まだ見つかっていないのです。海底で発見され、引き上げられた1926-1928年当初は三叉槍を持つポセイドンだとされていましたが、その後の研究で雷電を放つゼウスである可能性が指摘されています。 本学のブランディングは、平成21年に筑波大学のアイデンティティ(UI)の確立を目指すための、「筑波ブランド」構築の検討を始めたことに端を発します。“筑波らしさ”=“筑波ブランド”を包括し、本学が学内外に伝えたいメッセージです。筑波大学は「新構想大学」と呼ばれ、「開かれた大学」を開学の理念として生まれました。旧来のありかたを反省し、「学際」そして「国際」化への「改革」を掲げた、原点もアイデンティティもここにあります。その後の時代の流れをみれば、この理念の予見したものが、いかに先進的であったかがわかります。学際化、リベラルアーツ教育、産業と学問の連携、国際交流、留学生の受け入れなど、ことごとく時代の求めるところとなってきました。私たちは、この理念の先進性、先見性を誇りに思うべきです。あえていうならば、私たちは「伝統校」「名門校」の称号よりも、新しい、開かれた「先端校」「先進校」の理念を選んだのです。東京高等師範、東京教育大学という伝統の誇りはいまでも私たちの内にありますが、東京を離れ筑波に地を得たとき、誓ったものは新しい「改革」と「挑戦」の理念でした。「筑波」とは地名ではなく、その理念の代名詞と思うべきです。改革者は改革をやめず、開拓者は開拓をやめません。つねに、開かれてあること。みずからの改革をつづけ、時代の矢印となること。筑波大学が目指すナンバーワン、オンリーワンとは、最も「未来志向」の大学であること、ではないでしょうか。世界と未来に向いたTSUKUBA CITYの中核として。医学・体育・芸術もあり、肉体生と感性の領域まで含む人間理解と人材育成を目指す、真の意味での総合大学=UNIVERSITYとして。筑波大学とは「未来へのフロントランナー」である、と、あらためて確認して、この新しい伝統のバトンを、耐えることなくリレーしていきたいと思います。“紀元前470~450年代のギリシア古典期彫刻のブロンズ像は、この像のほかにはデルフォイの御者像(The Charioteer of Polyzalos; Museum, Delphi, Inv.3484・3540)しか現存しないので、その希少性のみではなく、芸術的価値からいってもギリシア彫刻史上はもとより、西洋美術史上の第一級の傑作といっても過言ではない”『アルテミシオンのポセイドン像レプリカ』伊藤 鈞(芸術学系教授)筑波大学芸術年報1982筑波大学のブランディング

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