TSUKUCOMM-41
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ティとして、大切な心の拠り所となりました。チベット仏教は、今も本来の姿をかなり忠実に守っており、仏教のルーツを探ろうとすれば、チベットに行き当たるのです。もちろん近代化に伴って、僧侶の在り方も変わっていますが、今でも出家する人は多く、一家に僧侶になる者がいることは名誉だと考えられています。しかしながら、チベット仏教にとって激動の時代ともいえる10~13世紀の資料はほとんどなく、研究としては停滞していました。■新たに発見された膨大な書物たちところが、2000年代に入ってから、何百冊にも及ぶこの時期の書物が、中国の寺院から発見されました。おそらく、17世紀ごろにダライ・ラマが集めて隠しておいたものだろうと言われています。多くの寺院が破壊された文化大革命を経ながら、これだけの資料が残っているのは奇跡的です。現在、世界中の研究者がその解読に取り組んでいます。これらの資料は仏教研究の流れを大きく変えましたが、日本語で言うところの草書体のような字体で書かれたチベット語の文献を読むのは一苦労です。まず活字体に変換し、それから読み解いていきます。そもそもチベット語がわかる人が少ない上、チベット仏教研究者もそれほど多くはありません。ゲノム解析のように、みんなで手分けして一斉に全容を解明する、といったふうではなく、それぞれ自分の関心のある部分から研究を進めています。■心踊る過去との対話これらの文献に書かれているのは、当時のチベットの人々による仏教の教義の解説です。この時代に新たに多くの仏典がインドのもともとの言語であるサンスクリット語からチベット語に翻訳されました。他国へ広めるには当たり前とはいえ、それを一般信者が行なったとは考えにくく、翻訳の専門家がいたことを示しています。現代のように知識や情報に乏しい時代、しかも文化の異なる国の間で、どうPROFILE東京生まれ。学習院大学で哲学を、東京大学大学院でインド哲学・仏教学を学び、1994年オーストリアのウィーン大学でチベット学・仏教学分野の博士号(Ph.D.)を取得。2003年筑波大学に着任、2011年より現職。2018年現在、日本学術会議連携会員、国際仏教学会東アジア代表を務める。インドとチベットの仏教思想史を専門とし、とくに中観思想、仏教論理学の哲学的内容とその変遷、インドからチベットへ仏教思想が伝承されるプロセスを追う。人文社会系における海外教育研究ユニット招致プログラムの責任者として国際的な研究拠点形成に尽力する。よしみずちづこ海外教育研究ユニット招致プログラム本学の教育研究力強化のため2014年に発足した制度で、海外の世界トップレベルの大学又は研究機関から研究ユニットを招致する。その1例目として人文社会系では、ハンブルク大学(ドイツ)アジア・アフリカ研究所インド学チベット学研究室から3名の研究者を招聘し、これまでの4年間で、インド学、チベット学、仏教学にまたがる研究拠点を形成するとともに、国際ネットワークの拡充や若手研究者の育成、研究発信においても顕著な成果をあげている。この9月にも国際会議を主催した。https://ierlp.jinsha.tsukuba.ac.jp聴HEADLINETSUKU COMMINTERVIEW新たに発見され復刻されたチベット語の書物の一冊。ページは綴じずに束ねられている。

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