TSUKUCOMM-42
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います。しかし、インフラや経済が成熟した今の日本では、ソフト面のレガシー作りが求められます。その観点から、2020年の東京大会に向けて取り組まれているのが、オリンピック教育です。オリンピックの理念やフェアプレーの考え方を伝えるための教材を監修し、各学校へ配布しています。1964年の東京大会以来、日本はオリンピック教育に熱心で、今回の教材も充実した内容に仕上がっています。同時に、高校生以上を対象とした、ボランティア育成にも携わっています。開催国のメリットは、誰もがオリンピックに参加できるチャンスがあるということ。ボランティアとして関わるのはもちろん、応援や観戦を通して、地元ならではの思い出を作ったり、前向きに頑張る希望を持つことも、オリンピック参加の形です。そういった記憶が次世代へ受け継がれていくことこそが、無形のレガシーになるのです。■700オリンピアードの歴史を総括するオリンピック史では、最初の古代オリンピックが行われた紀元前776年から、4年毎にオリンピアードという単位で数えます。4年というのは中途半端な感じもしますが、当時はポリス(都市国家)によって異なる暦が使われており、そのずれをリセットするタイミングでオリンピックが開かれるようになりました。暦だけでなく、ポリス間の争いごとなどもリセットする意図もありました。そのように数えると、2020年の東京オリンピック・パラリンピックは第700オリンピアードにあたります。その歴史を開催国として総括できるのは、研究者にとっては幸運なこと。ヨーロッパで築かれたオリンピックという文化が、日本でこれほど熱烈に受け入れられるのは、ある意味、不思議な現象です。その理由として考えられることの一つは、やはり嘉納治五郎の影響でしょう。勝敗を争うスポーツに、教育の視点を加えたことで、日本では「体育」という独特のスタイルが普及しました。これが、国民全体にスポーツを広め、スポーツとの関わり方に多様性を与えたのです。体育の普及に懸けた、嘉納の情熱の源に思いを馳せつつ、700オリンピアードを迎えます。PROFILE筑波大学大学院体育研究科修了。博士(人間科学/早稲田大学)。筑波大学体育系教授。つくば国際スポーツアカデミー(TIAS)アカデミー長。オリンピックに関する歴史研究、およびオリンピック教育に関する実践的研究に従事。IOC公認筑波大学オリンピック教育プラットフォーム事務局長、日本オリンピック・アカデミー副会長、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会参与、同組織委員会文化・教育委員会委員。2019年NHK大河ドラマ「いだてん」では、スポーツ史考証を担当。さなだひさしHEADLINE聴TSUKU COMMINTERVIEW

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