TSUKUCOMM-43
11/24

 初等教育研究会は明治37年に当時の東京高等師範学校において発足された日本で最も古い研究会です。初等教育の理論と実際を組織的に研究しそれを全国に広めていくために二つの取り組みが始められました。一つは今も続く日本で最も古い教育雑誌「教育研究」(四月号で1406号)です。二つ目が大正2年に始まった全国小学校訓導協議会です。本校が行っている年に二回の公開研究会はこの流れを組む歴史ある会です。絶えず問われる教育課題への具体的な対策を授業の事実を通して検証していく使命を背負うのは厳しくありますが遣り甲斐もあります。二月の研究会では全国の教員から意見をもらう公開研修会としての位置づけを、六月は成果を発表する研究発表会として役割を区別して行っています。まだ参加されたことがない先生はぜひ一度足をお運びください。田中 博史 副校長理論だけではなく、授業の事実を通して学ぶ会上の授業を目指して■フラットで自由な議論学習公開・初等教育研修会では、2日間に渡り校内全体を使って、このような提案授業が全ての教科について行われます。どの会場も満席以上で、それぞれの授業の後には、授業を実施した教員と参加者との間でディスカッションが行われます。そこでは校長も新米もありません。全国からやってきた、熱意あふれる若い教員たちが、明日の授業に使えるヒントを求めて、ベテラン教員に鋭い質問や厳しい指摘を率直に投げかけてきます。対話による授業が推奨される一方で、すでに確立された「型」から逸脱することは避けなければならないという、二律背反の状況に悩んでいる教員も多いのが現状です。田中先生が提案した授業に対しても、自分のクラスで同じことはできない、という意見が出されました。確かに、子どもたちに自由に話し合わせるスタイルの授業は、想定通りに議論が進まないなど、運営が難しい局面もありそうです。しかし、子どもたちはそもそも、自分の考えを話したがるもので、それを前提に、教員も臨機応変に考えることが求められる、と田中先生は応じます。また、授業の終わりに明確な結論を出す方が良いかどうか、についても意見が分かれました。まとめや解説をせず、次の授業に向けて、あえて課題を残す授業のやり方は、教科や単元によって、向き不向きがあるかもしれません。ただ、今回の算数の授業では、終わってからも、何人もの子どもたちが田中先生のところにやってきて、しきりに議論の続きをしていましたから、そういった「余韻」のある授業にも一理あるということでしょう。■批評ではなく具体論で研修会での提案授業は、附属小の教員たちにとっては、腕試しの機会でもあります。本邦初公開であることはもちろん、練習の授業をすることもできませんから、本番での一発勝負です。普段から、教科ごとに様々な議論を重ねていますが、この提案授業については、事前に他の教員に相談するか、当日まで自分だけで検討するかはそれぞれに委ねられています。学校の方針としても、できるだけオリジナルの提案を生かすようにしています。そのかわり、大勢の前で厳しい意見をもらうことも受け入れようという姿勢です。提案授業後のディスカッションは、1対多数の真剣勝負。ただし、単に批判したり評論するのではなく、必ず代案や改善策を提示する、それがマナーです。ですから、意見を述べる方も、よくよく考えなくてはなりません。参加者の多くは、自分の授業を休んで、この研修会に来ています。この貴重な機会を有意義に、という意気込みで、熱のこもったディスカッションが繰り広げられます。■教育を先導していくプライド研修会は、研究者としての附属小教員の姿が現れる場でもあります。提案授業は、今の教育に対して、足りないと考えていることを補ったり、新しい教材やカリキュラムなどを提示するもの。それぞれの教員が授業の積み重ねで培った知見や、日頃から温めてきたアイデアが詰め込まれています。それらをこれからの初等教育に反映させていくというプライドが、この会のクオリティとステイタスを高めています。理論と実践が一体となった研修会は、研究校として、日本の教育をリードし、教員全体のレベルアップの役割も担う附属小にとって、その原動力ともいうべき重要な位置付けにあります。小学校教員なら一度は参加したい、そう思わせるだけの大きな学びが実感できる2日間です。11

元のページ  ../index.html#11

このブックを見る