TSUKUCOMM-43
5/24

■「心地よさ」の正体を探る人の顔に水玉模様を配した画像を見ると、なんとなく違和感を覚えます。人によっては「気持ち悪い」と感じることもあります。このような画像の加工が「ハスコラ」。ハスの切り口のような水玉模様を使ったコラージュのことです。ハスコラに限らず、ブツブツ模様やしま模様など特定のパターンを苦手に感じたり、逆に強く惹かれてしまう、つまりある種の「敏感さ」をもつ人は結構いるものです。そういった模様がモチーフの芸術作品もたくさんあり、気持ち悪さを感じながらも美しいと思って鑑賞することもしばしばです。一方で、横断歩道を渡れないほどしま模様を不快に感じたり、陽の光やネオンサインが眩しすぎて外出できない、という人もいます。そうなると、日々の暮らし自体が困難になりますから、これは単に、人間の感覚は不思議なもの、では済ませられない問題です。心地よさや美しさに対する感性は、経験や知識によって培われる側面があるため、個人差が大きいものですが、違和感や苦手意識は、誰もが共通して感じる感覚であるにもかかわらず、言葉で説明しにくいものです。目で見たもの、視覚情報に対して心地よさ・気持ち悪さを感じるメカニズムを、脳科学や心理学、さらには空間デザインなど、様々な方向から解明しようとする研究プロジェクトが進んでいます。■「気持ち悪さ」の定量化ハスコラ画像に対する気持ち悪さの原因は何でしょうか。それが水玉模様にあるとすれば、水玉の数や大きさによって、気持ち悪さの程度が変化するはずです。気持ち悪さは、不快に感じた時間の長さや、心拍数などで定量化したり、基準となる気持ち悪さを設定し、それと比べた感じ方の強さで測ることもできます。このような、気持ちの変化を数値的に理解しようとするのが、心理物理学のアプローチです。そうして実験してみると、同じ面積でも水玉がたくさんあるほど、気持ち悪さが増すことが脳と心とデザインと人それぞれの「心地よさ」を解き明かす特定の形や模様、光に対して、「心地よい」あるいは「気持ち悪い」と感じることがあります。しかし、それは万人に共通の感覚ではありません。自分の感じ方が他の人とは違う、という経験は誰にでもあるはず。好みやセンスの問題だと片付けてしまいがちですが、感じ方の違いが大きくなると、日常生活に支障をきたすケースも出てきます。視覚情報を理解するメカニズムを探り、いろいろな「心地よさ」が共生できるような空間づくりを目指します。芸術系小 山 慎 一教授Shinichi Koyama

元のページ  ../index.html#5

このブックを見る