TSUKUCOMM-43
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わかりました。また、顔に水玉模様をはりつけた画像では、上下を逆さにすると、それほど気持ち悪さを感じなくなることも発見しました。その理由として、二つの仮説が考えられます。一つは、水玉の大きさや密度に対して、脳が何らかの規則性に基づいて反応している、つまり脳の機能として、そのような感じ方がプログラムされているということ。もう一つは、生物としての防衛反応のようなものです。人の顔にあるブツブツ模様は、感染症などの病気を想起させるため、本能的・経験的に避けようとする行動につながりますが、上下が逆になると、人の顔として認知しにくくなり不快感も減る、という理屈です。ここでは、水玉が「生存上の危険」という意味を持つことになります。■脳波から「敏感さ」を読み取る脳のある部分を損傷すると、人の顔や文字などがわからなくなることがあります。特定の形や光に対して極端な快・不快を感じるのも、脳内の情報処理になんらかの過剰な反応があり、それが「敏感さ」を左右すると捉えることができます。この敏感さには、生まれつき持っている部分と、訓練によって獲得する部分があります。例えば先述の、しま模様や光が苦手な症状は、片頭痛を持っている女性に多く、片頭痛も遺伝している傾向があります。この場合は、生まれつきの敏感さと考えられます。一方で、芸術などの創作活動をする人は、次第に細部にまでこだわるようになり、ちょっとした違いがとても気になったりします。これは訓練により得た敏感さといえるでしょう。ところが、こういった敏感さに苦しんでいる人の脳波を調べてみても、明らかな異変は見られません。本人はとても辛そうにしているので、劇的な違いがありそうなものですが、脳波を目で見ただけでは特に異常は見つかりません。視覚情報を取り込み、それを脳が処理し、感覚として現れるまでのプロセスは、極めて微弱なものなのかもしれませんし、意外な部位で反応が起こっていることもあり得ます。まだまだ研究の余地がありそうです。■敏感と鈍感の間研究を始めたきっかけは、視覚から得た情報を私たちはどのように理解しているか、という根住環境要因への落とし込み住みやすい住環境の提案と検証神経心理学的な要因分析Phase2Phase3Phase1知覚要因(視覚・聴覚・体性感覚)トライポフォビア認知症患者脳損傷患者自閉症スペクトラム片頭痛・光過敏性てんかん患者住みづらさ(デザイン)快適なデザイン  人的環境配慮採光や音環境への配慮  物理的配慮生きづらさ(家族・コミュニティ)社会的環境(情動・表情)認知要因(言語・視空間)敏感さ(過敏性)日本学術振興会 先導的人文学・社会科学研究推進事業(領域開拓プログラム)脳機能亢進の神経心理学によって推進する「共生」人文社会科学の開拓このプロジェクトでは3つのフェーズを循環することによって研究を推進している。フェーズ1では若年者と認知症/脳損傷患者を対象に、各種敏感さを引き起こす要因の特定と、脳が敏感に反応するメカニズムの解明を行なう。フェーズ2では日常生活において敏感さが引き起こす問題について、フェーズ1の成果に基づいて分析する。フェーズ3ではフェーズ2の成果に基づいて、敏感な人もそうでない人も住みやすい住環境の提案と検証を行なう。

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