TSUKUCOMM-43
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本的な疑問でした。そこには、いろいろなタイプの敏感さを訴える患者さんに出会った臨床体験もありました。心理学を起点に、気持ち悪さや美しさを感じる仕組みや、文字情報がよりよく伝わるパッケージデザインなどへと、研究テーマは広がっています。ハスコラを気持ち悪いと感じる人は比較的多いとはいえ、何とも思わない人ももちろんいます。光の眩しさを著しく辛いと感じる人でも、他の刺激にはほとんど反応しないことも珍しくありません。その時の精神状態や周囲の環境によっても、感じ方は変わります。また、気持ち悪さと心地よさは必ずしも相対するものではなく、いわゆる「キモかわいい」のような、中間的な感覚も確かに存在することがわかっています。敏感さと鈍感さは共存しており、別々に捉えるのは難しい。この分野の研究にはそのような複雑さ・難しさがあり、それが面白いとも言えます。■ユニバーサルデザインの先へ敏感さの違いは、他人には理解し難いものですし、障害としても認められにくいのが現状です。大多数の人にとってはなんでもない情報や環境が、一部の人を苦しめているというとき、みんなが同じ空間で過ごすための工夫は可能なのでしょうか。例えば、光に敏感な人のために、空間全体の明るさを落とすと、今度は視力の弱い人が困ります。かといって、空間を分けてしまうのも適切ではないでしょう。苦手な刺激を取り除くよりも、好きな刺激を積極的に提供する方が、当事者にとってはハッピーかもしれません。心地よさの基準は人それぞれ。障害のある人と共に暮らす社会に向けて、ユニバーサルデザインという考え方が広がっていますが、そこに敏感さも共生できるようにするには、これまでの概念を越えた空間デザインや、個別の対応策の在り方を考えることも重要です。敏感さや気持ち悪さを生じるメカニズムを科学的に解明し、薬やリハビリなどによる治療方法を見つけること、現に困っている人への支援を検討すること、どちらも研究成果を社会に還元する道。様々な分野が協働し、両者を並行して進めていかなくてはなりません。異分野融合研究の結晶が、誰もが心地よく過ごせる環境を導いてくれるはずです。PROFILE早稲田大学大学院文学研究科修士課程心理学専攻を修了後、ボストン大学(Boston University)心理学部博士課程修了。Ph.D.(心理学)。ハーバード大学医学部付属マサチューセッツ総合病院NMRセンター研究員、日本学術振興会特別研究員(PD)、昭和大学医学部神経内科普通研究生、千葉大学大学院工学研究科助教・准教授等を経て、2017年4月より現職。心理物理学と呼ばれる感覚を定量的に測定する手法を、デザインやリハビリに応用する研究を進めている。こやましんいちHEADLINE聴TSUKU COMMINTERVIEW

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