TSUKUCOMM-44
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 視覚特別支援学校の幼児・児童・生徒にとって、触る事は情報収集のための大切な手段です。職業課程の鍼灸科では、触診という診断技術にもつながっています。しかし、この日彫展でのタッチツアーは、生徒が触る事を楽しむ貴重な機会です。他の芸術鑑賞と同様に、各自の感じ方の違いが認められ、言葉で自由に表現出来る場でもあります。さらには作者との対話も出来ます。生徒たちには、この体験を通じて、触る事によって得られる豊かな世界を感じとって欲しいと考えています。石井 裕志 副校長「触る事」へのご褒美の深み が、不用意に触ってケガをしたり、壊してしまうことはありません。そして大事なことは、触った感覚やその感想を言葉で表現すること。目が見えていると、見たものをなんとなく理解したような気になりますし、それをみんなが共有していると思ってしまいがちです。しかし、言語化することによって、お互いの感じ方の違いに気づいたり、新しい学びも生まれます。生徒たちは、そういった言語化の習慣も身につけているので、作品に触った瞬間から、たくさんの言葉が飛び出します。手触りの好き嫌いから、どんな人の像なのか、作品タイトルとの関係などまで、様々な感想や意見を自由に語り合います。その中で、作家自身も新たな発見をすることもあります。予定時間の75分を少しオーバーして鑑賞を終えると、作家たちも交えた「まとめの会」に入ります。印象に残った作品や、作品について考えたこと、疑問に思ったことなどをグループごとに話し合い、作家に直接ぶつけます。手から感じる作品の特徴は、目で見たものよりも的確に捉えられていることも多く、生徒たちの率直な感想や鋭い質問に、作家たちも真剣に応じます。■作家たちとの交流を続けてこのような鑑賞プログラムは、20年近くにわたって、附属視覚特別支援学校と日本彫刻会とが協同で作ってきたものです。美術館という建物は、デザイン性も重視されるため、障害のある人にとっては必ずしも使いやすい場所ではありません。しかし、建物よりも作品へのアクセスが限られていることの方が大きな問題。タッチツアーを実施するにあたって、双方で様々な試みを重ねてきました。見学者と直接、接する機会自体も少なかった作家たちが、視覚障害者をどのように会場へ誘導したらよいか、また、説明の順序などといった細かな配慮を学び、一方、学校側も、作家がどんなことを伝えたいのかを理解するなど、互いの連携を深めながら、現在のようなタッチツアーが実現したのです。先生たちにとっては、こういった事前の調整や準備は大変ですが、その分、満足度の高いプログラムができあがります。自由見学をさせるのに比べて、じっくりと触り、説明を聞き、話し合うという深い学習ができることが、触って学ぶ何よりのメリット。特別支援学校ならではの豊かな体験ともいえるでしょう。■「触る」体験を広げていくタッチツアーを終えて、生徒たちはそれぞれの鑑賞体験を振り返りました。そこには、事前学習で得ていたイメージと実際に触れて感じたこととの比較や、一つひとつの作品への感想、作家との対話から学んだことなど、まるで目で見てきたかのように事細かに述べられていました。今回のタッチツアーが、どんなに新鮮で濃密な体験だったかがうかがわれます。美術館に限らず、博物館、動物園、裁判所、資料館など、様々な施設で「触る」体験を重ねていくことが、視覚障害者にとっては重要な学びであり、社会参加への一助にもなります。まだまだ限られてはいますが、タッチツアーのような機会は健常者にとっても新しい気づきを与えてくれるもの。附属視覚特別支援学校の取り組みは、多様な学びの方法を提示しています。副校長(右)とタッチツアーを引率した青松利明教諭11

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