TSUKUCOMM-44
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17タンパク質は、閉じたかご(ケージ)を作ることができます。しかし、このような天然化合物では、会合や解離を制御することが難しく、また、閉じた球体を作るためには、ユニットとなるタンパク質構造が幾何学的な制約を受けてしまいます。そのため多くの研究者がより高性能のケージを作ろうと試みましたが、なかなかうまくいきませんでした。そこで、生存ダイナミクス研究センター(TARA)の岩崎憲治教授と宮崎直幸助教およびポーランドのJonathan G. Heddle教授らの研究グループが考えたのは、金原子を「ホッチキス」として使うことでした。TRAPというドーナッツ状のタンパク質を一つのユニットとしてホッチキス留めをするようにつなぎ、直径22nmという非常に小さなケージを作ることに成功したのです。その構造を詳しく調べてみると、アルキメデスの変形立方体という、一風変わった形をしていることがわかりました。このことは、従来考えられていた幾何学的な制約を超えてケージを作ることが可能であることを示唆しています。また、このケージは、通常のタンパク質なら壊れてしまうような、高温や変成剤に対して非常に安定という性質を持つ反面、還元剤を加えるとバラバラになるという、特異な性質を持っていることもわかりました。つまり、「丈夫で開閉可能なかご」というわけです。このような物質はただ珍しいだけではありません。ケージの中に薬剤を入れて体内を輸送するなど、カプセル開発にとても有用です。ホッチキスでつなぐという方法は、他のタンパク質へも応用できる可能性があり、目的に応じた様々なケージが作られることが期待されます。いくつかある選択肢の中から1つを選ぶのは、なかなか悩ましいことです。動物にとっては、選択を誤ると、命の危険につながる場合もありますから、選択行動の際に脳内でどのように情報処理がなされているかを知ることは重要です。何かを選ぶ時、脳内では、①各選択肢の価値を主観的に見積もり、②それらを比較し、③その結果に基づいて選ぶ、というステップで判断が行われます。最初の、主観的な価値の見積もりは、脳の眼窩前頭皮質という部位で行われていることがわかってきていますが、それ以降のステップを脳のどの部分が担っているのかは未解明でした。医学医療系の設楽宗孝教授と瀬戸川剛助教らの研究グループは、価値を見積もった後の、比較のステップもまた、眼窩前頭皮質で行われていることを明らかにしました。アカゲザルを用いた実験では、必要な作業負荷と、それによって得られる報酬(水)の量について、組み合わせの異なる(価値の異なる)2つの選択肢を順々に提示し、いずれかを選ぶという行動課題を与えました。そして、実際の選択行動から、各選択肢に対してサルが主観的に判断した価値を数値化し、それぞれの選択肢を続けて見た際の、眼窩前頭皮質の神経細胞の活動状態を観察したところ、2つの選択肢の価値の差を表していました。つまり、選択肢の価値を比較する処理が、眼窩前頭皮質で行われていることがわかったのです。価値判断に基づく行動選択の脳内メカニズムが解明されれば、例えば、ヒトの購買行動を予測するモデルの構築など、様々な分野への応用も考えられます。より価値の高い選択肢を選ぶ脳の働き「ホッチキス」で作る、珍しい形と性質を持つ網かご状ナノ粒子RESEARCH TOPICSニューロン活動の記録実験室にて(設楽宗孝教授:左)TRAPで作ったナノサイズのケージ岩崎憲治教授(右)と宮崎直幸助教

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