TSUKUCOMM-45
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17ドルフィンキックは、イルカのように水中を潜水する技術で、主にバタフライで使われますが、全ての泳法に共通する基本技術です。しかし、なかなか難易度が高く、上達するにはコツが必要です。体育系の高木英樹教授は、新潟医療福祉大学との共同研究により、そのコツを科学的に解明しました。泳ぐ時の推進力がどのように生じているのかを知るには、水の流れからスイマーの手足に働く力を詳しく分析しなくてはなりません。しかしながら、スイマーの周りの水流は不規則で、その力を直接測る有効な方法は、これまでありませんでした。研究チームは、水流に細かい粒子を混入し、その動きを撮影・記録することで、水流の方向や大きさを可視化する方法(粒子画像流速測定法)と、モーションキャプチャシステムを使って、ドルフィンキックを行うスイマーの動作と、その周りに生じる水流を解析しました。すると、ドルフィンキックでは、単に両足を上下に振っているのではなく、捻りの動作が含まれていることがわかりました。それにより、強い渦が足裏に形成され、蹴り下ろした時に両足先が近づき、その渦が中央に集まって塊となり、それが周囲の水を引き寄せるようにして下向きの強い流れを作り出します。これがスイマーを前に押し出すのです。すなわち、この、足裏にできる渦がドルフィンキックの推進力の源だったというわけです。蹴り下ろし動作で強い渦を作り、捻り動作でその渦を集める、これがドルフィンキックで速く泳ぐコツ。競泳選手の泳ぎを見る時の注目ポイントにもなりそうです。現在の鳥類が恐竜類の生き残りであることは、今では定説になっています。一部の鳥類は、集団で巣作りをし、親が卵を温める(抱卵する)ことで巣を保護します。それではその祖先である恐竜はどうだったのでしょうか。恐竜の巣の化石が同じ場所で複数見つかるといった「集団営巣跡」が、世界各地で報告されています。つまり、ある種の恐竜は、集団で一カ所に集まって巣作りをしていたことがわかります。けれども、恐竜は抱卵しないものが多く、現在の鳥類のように、その巣を親が守っていたのかどうかはわかっていませんでした。生命環境系の田中康平助教と、北海道大学、兵庫県立人と自然の博物館などによる国際共同研究グループは、モンゴルのゴビ砂漠で発見した恐竜類の集団営巣跡において、営巣時の行動の推定を試みました。2011~2018年までに実施した計5回の発掘調査により、約300m2のエリアで、少なくとも15個の巣化石が確認されました。卵化石の構造から、この地で集団営巣を行なっていたのは、獣脚類恐竜のテリジノサウルス類だと推定されます。この恐竜は、抱卵はせず、卵を巣材の中に埋め、周囲の熱で温めていたようです。さらに、15個の巣化石のうち9個から、卵が孵化した形跡が見つかりました。このことは、15個中9個、すなわち60%の確率で営巣が成功したことを示しています。このような高い営巣成功率は、巣を守るワニ類や鳥類の値と同等であることから、テリジノサウルス類も、親が巣を守っていたと考えることができます。この研究により、集団で巣を守るという、現在の鳥類に見られる行動は、抱卵行動が進化する前の恐竜類にまで遡ることが明らかになりました。恐竜は群れで巣を守っていた!ドルフィンキックの推進力は足裏の渦にあり!RESEARCH TOPICSテリジノサウルス類恐竜の集団営巣の復元図(復元画提供:服部雅人氏)実際の測定風景。水中キック泳動作とスイマーの後ろに生じる流れを計測する。レーザーシートを回流水槽の下から照射し、スイマーの横断面の流れ場を得る。スイマーの各関節にはLEDマーカーが貼り付けてあり、モーションキャプチャで三次元動作解析を行う。

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