TSUKUCOMM-45
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■細胞と細胞外マトリクス通常は直径20mm程度の大動脈が、こぶ状に1.5倍以上にまで膨らんだ状態が大動脈瘤です。大抵は破裂するまで症状がなく、健康診断や別の病気の診察で超音波やレントゲンなどの検査を受けた際に、偶然見つかることが多い疾患です。いったん見つかれば、薬剤で血圧をコントロールして悪化を抑えたり、患部を人工血管で置き換える外科的処置が可能ですが、自然に治癒することはありません。高脂血症や喫煙などの生活習慣が原因の一つと言われているものの、詳しい発生メカニズムはまだわかっていないのが現状です。血管は、内側から、内皮細胞、平滑筋細胞、線維芽細胞の3層構造でできています。しかしそれだけで独立しているわけではなく、弾性繊維など細胞の外の組織とも結び付いていて、その影響も受けざるを得ません。とりわけ大動脈は、血液を流し続けるために、常に力学的な刺激を受ける、つまり伸び縮みを続けており、弾性繊維との結び付きが重要です。大動脈瘤ができる原因には、遺伝的な要素や、細胞そのものの異常の他に、細胞外の組織とのつながり方に問題が生じているケースもあるのです。ですから、体内の異常、すなわち病気を扱うとき、細胞と細胞外環境(細胞外マトリクス)を分けて考えるのではなく、一続きのものとして捉えなくては、その全容を理解することはできません。互いにどのように結合し、どのようなシグナルをやりとりしているのかを探り、そこから大動脈瘤の発生メカニズムを解明しようとしています。■シグナル伝達経路を見つける研究は、胸部に大動脈瘤を発生するマウスモデルを使って行います。瘤発生の初期、成長過程、破裂、の各フェーズで、どのようなシグナル、因子が働いているかを、一つずつ明らかにしていきます。発症のきっかけが異なれば、成長や破裂のしかたも変わります。大動脈瘤が発生する前、発生中、発生後の血管について、それぞれタンパク質の分離・同定を行い(プロテオーム解析)、様々な因子の変動を調べます。その因子は35個ほど。血管の異常を引き起こすシグナルを探して細胞と細胞外環境とをシームレスに捉える生存ダイナミクス研究センター柳 沢 裕 美教授Hiromi Yanagisawa生きている限り、絶え間なく身体中に血液を送り続ける血管。そこに異常が生じると、命の危険に直結します。特に、血管が大きく膨らむ大動脈瘤は、決して珍しい疾患ではないのに、自覚症状はほとんどなく、破裂して手遅れになってしまうことが多いのがやっかいなところです。大動脈瘤がどのように発生し、進行するのか、そこに関与するシグナルが血管の細胞に伝わるメカニズムを明らかにすることで、予防や治療への道を拓きます。

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