TSUKUCOMM-45
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そのうちの一つ、コフィリンというタンパク質に着目し、解析を進めたところ、これが活性化すると、細胞骨格をつくるアクチン繊維が断裂し、大動脈瘤ができることがわかりました。このようにして、大動脈瘤発生のシグナル伝達経路の一つが特定されたわけですが、他の研究グループは、これ以外にもいくつかの要因を示唆しています。残る因子の解析や他の要因などをさらに詳しく調べて行く、地道な研究が続きます。■研究環境を生かして医学研究では、マウスでの研究結果が、ヒトに対しても適用できるかを確かめることはとても重要です。最近、大動脈瘤発生因子としてもう一つ発見した、トロンボスポンジン1というタンパク質については、附属病院の心臓血管外科と協力し、実際の胸部大動脈瘤患者の手術の際に、病変部組織を提供してもらい、およそ4年をかけて、その解析を80症例ほど行いました。その結果、トロンボスポンジン1が、ヒトの大動脈瘤患者でも高発現していることが確認されました。また、血管に対する周期的な伸展刺激(機械的な伸び縮み)がこのタンパク質の発現を誘発している(メカノトランスダクション機構)こともわかりました。もちろんそれだけで、マウスと同様に、ヒトにおいても大動脈瘤発生の因果関係を断定することはできませんが、このような基礎研究と臨床のコラボレーションが実現できたのは、筑波大学ならではの研究環境があってこそと言えるでしょう。■血管への興味もともとは、基礎研究と臨床の両方にじっくり取り組みたいと、血液内科を専攻していました。アメリカへ渡って研究を始めた頃に、遺伝子工学という新しい学問領域が登場し、その中で、神経堤細胞発生の研究として血管を扱うようになりました。非対称に広がる大血管は、胎生期に目まぐるしくそのパターンが変わっていきます。その様子に興味を持ったのが最初でした。研究室を移って、皮膚がたるんだような状

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