TSUKUCOMM-45
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態になる疾患(皮膚弛緩症)の研究に携わると、細胞外マトリクスである弾性繊維が研究対象になりました。大動脈瘤の研究を進めるきっかけとなったのは、2002年に発表した研究成果でした。細胞外マトリクスの一つ、フィブリン5が欠損していると、弾性繊維の形成に異常が生じることを発見したのです。これにより、皮膚を支える力が弱まって、皮膚弛緩症を発症するのですが、弾性繊維の異常は、それだけではなく、血管との結合にも影響を及ぼし、特に大動脈瘤を引き起こす要因になっていることがわかりました。循環器の病気はたくさんありますが、実はその中で血管を専門に研究をする人は、それほど多くはありません。血管の研究も、メインストリームは動脈硬化。だからこそ、誰にでも発症する可能性のある大動脈瘤は、価値のある研究テーマです。■一歩ずつ、新しい領域へ生体や病気に関する研究を突き詰めていくと、どうしても分子レベルの細かい構造やメカニズムに行き着きます。しかし一方で、体の中では、細胞外にあるマトリクスが細胞表面につながり、それがさらに細胞骨格につながり、というふうに構成されており、一部分だけを切り離して考えることはできません。血管に関しても、血管壁で起こっていることを、細胞と細胞外マトリクスを含めた一つのユニットとして捉えることが不可欠です。そうなると、ある病態に関与する因子は、複雑になっていくのかもしれません。それでも、それらを一つひとつ、きちんとステップを踏んで、様々な方向から追っていくことが基礎研究です。今わからないことを明らかにし、それを積み重ねていった先に、予防や治療への道が見えてきます。長年、血管の研究に取り組んできましたが、まだ手がつけられていない領域があります。それは脳血管。脳は、他の器官とは異なる独特の仕組みを持っています。細胞外マトリクスの考え方も、脳においては違った捉え方が必要です。神経系など、これまでの専門分野ではカバーしきれない部分もありますが、この新しい領域に踏み出し、全身の血管のことを知る。それが、これからの目標です。PROFILE1986年筑波大学医学専門学群卒業、1993年博士(医学)。血管の生物学と病態を専門とする基礎医学研究者。1991年より米国に移住し、テキサス大学サウスウエスタン医学センターにてポスドク~研究室主宰者(PI)として24年間過ごす。母校に招聘され、2015年から現職。女性研究者のサポートやダイバーシティーの推進にも力を注いでいる。3女の母親。好きな言葉はセレンディピティー。やなぎさわひろみHEADLINE聴TSUKU COMMINTERVIEWHEADLINE聴TSUKU COMMINTERVIEW筑波大学 生存ダイナミクス研究センター柳沢プロジェクト生物の生存戦略を理解することを目的とする生存ダイナミクス研究センターに設置された6つのプロジェクトの一つ。細胞外環境応答研究をメインテーマに、細胞と細胞外環境との相互作用の理解を目指す。とりわけ、血管に着目し、細胞外環境に対する血管細胞の応答と、それによる大動脈瘤などの血管疾患の発生メカニズムの解明に取り組んでいる。

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