TSUKUCOMM-46
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17最も原始的な動物の仲間でありながら、光の加減によって虹色に美しく輝くクシクラゲ。見かけはクラゲに似ていますが、分類上は有櫛(ゆうしつ)動物に属します。最近は多くの水族館で展示され、人々の目を惹きつけています。光っているのは「櫛板」という運動器官で、繊毛という目に見えないほど小さな細胞の毛が数万本も束になったものであることは知られていましたが、それを形作っている分子の正体はわかっていませんでした。本学生命環境系の稲葉一男教授らの研究グループは、その解明に挑みました。クシクラゲの一種、カブトクラゲを長期飼育し、遺伝子カタログを構築した後に、単離した櫛板に含まれるタンパク質を分析しました。すると、有櫛動物の仲間だけが持つ「CTENO64」というタンパク質の存在が明らかになりました。また、このタンパク質は、櫛板の根元近くに分布し、櫛板の中で繊毛同士をつなぎとめていることもわかりました。CTENO64がなくなると、繊毛の動きがバラバラになり、正常に移動することができなくなります。つまり、CTENO64は、櫛板の中で繊毛を規則正しく配列させ、そのことによってタマムシや孔雀の羽のように、反射する光が干渉しあって生み出す「構造色」を作りだすのです。さらに、無数の繊毛を束ねて板状にし、協調的に動かして移動する「オール」を作る上でも、重要な役割を担っているわけです。別の研究では、クシクラゲの櫛板には、光の方向や強度を自在に制御できるという性質があるらしいことも報告されています。虹色に光りながらゆったりと水中を浮遊する「癒し系」のクシクラゲが、実は緻密な構造で光を操るツワモノでもあったとは驚きですね。粘土板などに記された古代の資料には、当時の様々な天文現象の記録が残されているものもあります。こういった記述は、地球上で過去にどのような現象があったのかを知る手がかりとなります。本学人文社会系の三津間康幸助教らの研究チームは、紀元前8~7世紀に楔形文字とアッカド語で粘土板に記された占星術レポートを解析し、オーロラ様現象についての記録を発見しました。この占星術レポートは、アッシリア(現イラク北部)の王に説明するために、実際にあった天文現象を記録したもので、オリジナルの粘土板は大英博物館に保管されています。今回の研究では、すでに英訳され公表されているアッシリア占星術レポート刊本を解析するとともに、その原本となる粘土板を模写し、楔形文字を新たに翻訳しました。その結果、これらの資料には「赤光」「赤雲」「赤が空を覆う」といったオーロラ様現象と、その後に予測される出来事について、当時の3人の天文占星学者が王にた報告した内容が記されていることがわかりました。これは紀元前680-660年前後のものと見られ、これまでに知られていた最古のものよりも、さらに100年ほど古いオーロラ様現象の記録です。オーロラというと、北極や南極などの緯度の高い地域での現象のイメージがありますが、現代においても低緯度地帯でも観測されることがあります。美しく神秘的なオーロラも、現代では地球上の電力や通信網に深刻な影響を与えうる太陽活動。太古の気象の記録を現在の観測データと比較することは、発生頻度の予測や災害への備えにもつながります。その観点からも、古代の記録を探索し読み解く研究が進められています。最古のオーロラ様現象の記録を発見!虹色に輝く「クシ」の謎を解くRESEARCH TOPICS虹色の輝きを放つクシクラゲ(米科学誌の表紙を飾りました。 ©Cell Press)紀元前680-660年前後のオーロラ様現象を示す粘土板2点の模写。a)には「赤光」、b)には「赤雲」が記されている。

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