TSUKUCOMM-46
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教科教育はもとより、全人格的な発達を支援する専門家としての側面が改めて求められるわけです。■キャリア教育の源流日本でキャリア教育が始まったのは1999年のことです。若者のフリーター志向が増える中、職業的な専門性を維持するためには勤労観を培うことが重要だという認識のもと、文部省(当時)の中央教育審議会が答申を出しました。最初の年収だけなら正社員もフリーターも大差ありませんが、長い目で見ると、職能教育や社会保障などに大きな違いが現れます。継続して働くことが社会の安定にもつながるため、キャリア教育がうたわれるようになりました。キャリア教育をさらに遡ると、進路指導の理念に突き当たります。現在の進路指導は、進学先を決めることに注力されていますが、そもそもは、就職や進学を経て、その後の生活によりよく適応する力を育てる、という理念のもと、戦後まもなく導入されたものでした。しかし高度経済成長期になって、効率よく労働者を育成する必要が生じ、男子は工業へ、女子は家庭へ、という構図が、社会全体として労働力を安定させるための最適解と考えられるようになり、進路指導もそういった方向へと形骸化してしまいました。これからのキャリア教育には、ワークライフバランスや家庭人としての役割、人種や文化の多様性の許容など、社会参画をしていくために必要な資質能力を養うことも含まれています。ですから、初等教育からスタートすることに意義があるのです。■人生100年時代に対応する今や、キャリアを考えなくてはならないのは若者だけではなくなりました。すでにキャリアを築き退職期に差し掛かった大人にとっても、その後の人生でどのように社会参加していくかが、大きな課題になっています。かつては、退職後にいかに隠居生活へ移行するかという観点でしたが、昨今は、より能動的に社会と関わり続けていくことが求められます。収入を得るために働く、というだけがキャリアではありません。とりわけ、セカンドキャリアについて考えるとき、それまでのキャリアで培ってきた様々な知識やスキル、ノウハウを使って社会に貢献することも重要な要素となります。例えば、学校教育や放課後の活動などを通して、それらを子供たちに還元するといったことは、これPROFILE1993年筑波大学院博士課程教育学研究科単位取得退学。博士(教育学、1995年筑波大学)。中央学院大学商学部、筑波大学大学院人間総合科学研究科等の教員を経て、2008年に文学科学省国立教育政策研究所生徒指導・進路指導研究センター 総括研究官(同省初等中等教育局 生徒指導調査官(キャリア教育担当)及び教科調査官(特別活動担当)併任)に就任。その後、2013年4月に現職に着任。2018年度より教育学類長。2010年には日本キャリア教育学会から学会賞を授与されている。 ふじたてるゆき

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