TSUKUCOMM-47
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可溶型CD155により、がん細胞の免疫逃避が生じる仕組み(A)NK細胞(免疫細胞)上のDNAM-1とがん細胞上の膜型CD155が結合すると、DNAM-1から活性化シグナルが伝達され、NK細胞が活性化し、がん細胞を殺傷する。(B)がん細胞から産生される可溶型CD155は、DNAM-1に結合する。そのため、DNAM-1と膜型CD155の結合が阻害され、NK細胞が活性化されず、がん細胞を殺傷できない。20約6600万年前、白亜紀の最末期に、恐竜やアンモナイトをはじめとする多くの生物が絶滅しました。その原因は、直径10kmほどの巨大隕石がメキシコのユカタン半島に衝突したことだと言われています。けれども隕石に潰されたのではありません。衝突直後に生じた様々な環境変化が、ダメージとなったのです。具体的には、太陽光遮断、酸性雨、温暖化、紫外線透過、などが考えられます。しかし実際にどれが発生したのかは、わかっていませんでした。本学生命環境系の丸岡照幸准教授らの研究グループは、この時代の地層(K-Pg境界層)に含まれる元素を詳細に分析し、隕石衝突に伴って大規模な酸性雨が降った証拠を発見しました。デンマークのStevns Klintに露出しているK-Pg境界層の試料について、放射光を用いた微量元素マッピングを行った結果、隕石衝突と同時期に、銀や銅が地層中に濃集されたことがわかりました。つまり、隕石衝突によって地表が加熱されたり破砕岩石が飛散したりするときに、硫黄や窒素が三酸化硫黄や一酸化窒素として大気中に放出され、酸性雨となって地表の銅や銀を溶かし出したというわけです。生物にとってはあまりに激しい環境変化だったに違いありません。2018年に本庄佑さんがノーベル賞医学・生理学賞を受賞したことで、がんの治療法として注目を集めるようになった免疫療法。免疫細胞上には免疫の働きを抑えるタンパク質があり、その機能を妨げる薬を用いるのが、治療の主流です。本学医学医療系/革新的創薬開発研究センターの渋谷和子准教授らの研究グループは、これとは全く逆の免疫の仕組みを発見しました。免疫細胞の負の作用を封じるのではなく、本来の力を十分に発揮させて、がん細胞を排除するというものです。その鍵は、CD155タンパクという物質です。CD155タンパクには、膜型と可溶型の2種類の変異体があり、がん細胞の表面では膜型CD155が増加し、これが免疫細胞上の受容体DNAM-1と結合すると、免疫細胞は活性化してがん細胞を排除します。一方、可溶型CD155は血清中に存在しており、がん患者ではその量が多いことが知られていました。そこで研究グループは、この可溶型CD155の働きを調べました。すると、がん細胞上に、可溶型CD155が多くある場合には、がんの転移が増えていました。つまり、がん細胞上の膜型より先に、可溶型CD155が免疫細胞のDNAM-1と結合し、免疫の作用を抑えてしまうのです。ですから、体内から可溶型CD155を取り除けば、免疫細胞は再びその力を取り戻すはずです。この仕組みを利用すれば、がんの免疫療法に、これまでとは異なる「もう一つの選択肢」が拓けると期待されます。免疫の働きは不思議なものですね。がんの免疫療法に「もう一つの道」を拓く恐竜絶滅の時代に大規模酸性雨発生の証拠発見!RESEARCH TOPICSK-Pg境界における大規模酸性雨発生の仕組み巨大隕石の衝突による加熱により、地層からCO2や三酸化硫黄SO3が放出される。SO3は硫酸H2SO4となり、雨水に溶解して硫酸酸性雨となる。クレーターから飛び散った破砕岩片が落下する際に、岩片直下の空気が加熱されて一酸化窒素(NO)を形成し、NO2を経てHNO3となり、硝酸酸性雨として地上に到達する。これらの酸で溶かし出された銀(Ag)や銅(Cu)は海洋に流れ込み、銀・銅に富む粒子を形成する。イリジウムなど隕石由来の成分は、衝突による加熱で気化するが、冷却されて固体凝縮物となり、海洋底で堆積物に取り込まれる。膜型CD155細胞傷害活性DNAM-1がん細胞NK細胞DNAM-1可溶型CD155膜型CD155がん細胞NK細胞AB

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