TSUKUCOMM-47
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■より小さく、より速くただ静止しているように見える物質も、それを構成する原子や電子といった小さな領域では、様々な挙動をしており、その動きが、物質の機能を発現させています。非常に高速で瞬時に起こる変化を精密に捉えることが、新しい機能を持つ材料の開発につながります。例えば半導体も、原理は教科書に書かれた通りであっても、実際に原子や電子がどのように動いているのか、より詳しくわかれば、これまでにない機能や性能を付与することができるのです。物質を観察するツールの一つ、走査トンネル顕微鏡(Scanning Tunneling Microscope, STM)は、探針で物質の表面をなぞることにより、表面形状を原子1個のサイズよりも小さい精度で見ることができる顕微鏡です。1980年代前半に発明され、ナノテクノロジーの進展に大きく貢献してきました。一方、分子や原子の超高速の動きを観察するためには、レーザー分光法が用いられます。レーザー光をフェムト秒(1000兆分の1秒)という極めて短い瞬間で物質に照射し、その時に生じる物質の変化を検出するものです。この2つの技術を組み合わせると、空間分解能(サイズ)と時間分解能(速さ)を併せて、物質の挙動を詳細に知ることができます。しかしながら、このアイデアが実現するまでには10年近い年月がかかりました。レーザー光照射によってSTMの探針が熱伸縮を起こし、探針と試料との距離が変動してしまうなど、様々な問題に直面しました。そういった課題を一つひとつクリアし、世界初の新しい分析装置「時間分解STM」が完成しました。■進化する顕微鏡従来の顕微鏡は、物質をそのまま見るためのツールでした。つまり、原子や分子の並び方や結晶構造など、物質の姿をできるだけ詳しく知ることが目的だったのです。しかし今時の顕微鏡はそれだけではありません。光や温度、磁場などの刺激を与え、その応答を観察するためのものが種々開発されています。物質の状態を細かく見ることができる装置が顕微鏡です。単に拡大するだけではなく、温度や光、磁場などの条件に応じて物質が変化する様子を観察するために、様々な顕微鏡が使われています。中でも、トンネル効果という物理現象とレーザー光を組み合わせた、独自の顕微鏡を世界に先駆けて開発し、1000兆分の1秒といった極めて短時間に生じる物質の挙動を原子レベルで捉えることで、物質に隠された性質や機能を引き出そうとしています。数理物質系重 川 秀 実教授Hidemi Shigekawaナノの世界を観る目を研ぎ澄ます新しい顕微鏡で解き明かす極限の世界

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