TSUKUCOMM-47
6/24

外的な刺激でわざと物質を変化させ、その様子から、物質が潜在的に持っている性質を見つけ出すのです。私たちが見ている様々な物質の現象は、その内部で生じる微小で高速な変化の積み重ねと、それら全体がシステムとして作用した結果です。それは、金属や半導体のような無機材料でも、生物の細胞でも同じこと。時間分解STMは、極めて広範囲に活用できる基盤技術です。これまでは、物質が変化する前後を観察するのみでしたが、変化の過程のダイナミクスまで捉えることができるようになりました。分析装置は、分析すべき対象があって初めて、その力を発揮します。ですから研究は必ず、それらを専門に研究する人々との共同で行われます。知りたいことは何か、そのためにどのような工夫が可能か、異分野間のディスカッションが、装置を進化させ、同時に、分析対象に関する新たな発見をもたらします。そしてそれらの知見が、また別の研究テーマへの展開を広げる、という好循環を生み出します。■ ナノテクから生体まで半導体については、いろいろな手法によって、すでに数nm(ナノメートル=10億分の1メートル)という微細なレベルでの分析が可能となっています。それに伴って高性能化も進みましたが、さらなる機能の向上を目指すには、今までの手法では見えなかったものを見る必要があります。知り尽くされたように思えるものでも、時間分解STMでの観察によって、まだ隠されている性質を引き出すことができるかもしれません。また、最近特に注力しているのが細胞の観察です。細胞の構造はよく知られていますが、実は細胞ごとに異なる挙動を示します。例えば、病気の治療などで薬剤を使用した時に、薬効が高い細胞とそうでない細胞があります。それぞれの細胞の中でどのような反応が起こっているのかがわかれば、より効果の高い薬剤や投与方法の開発に役立ちます。細胞は生きた状態で観察することが重要です。しかしながら、その内部にはさらに様々な分子が存在するという複雑な構成ですから、光のあて方や探針の使い方、温度など、他の材料と同じような過激な条件で観察するわけにはいきません。細胞内部の分子一つひとつを適切な状態で観察できるように、装置の改良に取り組んでいます。

元のページ  ../index.html#6

このブックを見る