TSUKUCOMM-48
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です。そのための試行錯誤を繰り返す過程で、問題の本質も見えてきます。■感染症対策の効果予測この手法を使って、新型コロナウイルス感染症対策の効果についてもシミュレーションを行っています。経済活動の縮小や移動の制限などの対策によって、人々がどのような行動をとり、その結果、感染がどの程度広がるのかなど、感染発生初期から、感染源といわれる中国の武漢における全患者約8万人のデータベースを用いて、いくつものシミュレーション結果を積極的に発信してきました。こういった研究結果は、欧米では政策決定にも活用されています。感染症対策に関する研究は、オランダの大学で研究していた頃に始めたテーマです。最初に取り組んだのはエボラ出血熱でした。ヨーロッパはアフリカが近いこともあり、切実な問題になっていました。そこで、もし感染者が一人でも日本に入国したらどうなるかをシミュレーションしてみたところ、想像以上に深刻な結果が得られたのです。新型インフルエンザ、SARS(重症急性呼吸器症候群)、ジカ熱、デング熱、風疹など、毎年のように感染症は発生しています。その都度、WHO(世界保健機関)や国立感染症研究所などのデータを分析しますが、感染症ごとに、感染のメカニズムや対策は異なります。蚊が媒介するような場合には、蚊の動きも考慮しなくてはなりません。基本的なモデルは同じでも、使用するパラメータは全く違います。■理系と文系の間を行くAIやビッグデータと聞くと、いわゆる理系の最先端分野のように思われます。確かに、人間の思考をコンピュータで再現することを突き詰めようとすると、難解な数式やアルゴリズムを避けて通ることはできません。けれども、実際の人間の思考はもっともっと複雑です。小説のように文章で表現することはできても、それを数式に置き換えるには、かなり単純化しなければなりません。つまり、同じ事柄でも、複雑な現実の世界に近いほど人文社会科学の領域になり、限定的な仮想世界を扱うと自然科学の領域になるのです。そう考えると、プログラミングは人文社会科学と自然科学の中間にあるものと捉えることができます。複雑な現実世界を、計算可能なレベルに抽象化するのがプログラミングというわけです。とりわけ、組織や社会の課題をシミュレーションする際には、コンピュータサイエンスよりも、社会学や心理学など、人文社会科学の知識が重要になります。日本では、コンピュータサイエンスの計算テーマとして社会課題を扱うことが多いのですが、世界的にみると、社会科学系の研究者が、課題解決のツールとしてプログラミングを利用する研究スタイルが主流。プログラミング言語としても、Logo言語という、もともと小中学生の練習用に開発されたものがベースとなっており、それほど高度な専門性がなくても使いこなすことが可能です。■人の役にたつシミュレーションを研究の本拠地は社会人大学院(ビジネススクール)。ビジネススクールでは一般に、実務重筑波大学大学院 人文社会ビジネス科学学術院ビジネス科学研究群 経営学学位プログラム 倉橋研究室社会的課題の解決策をコンピュータ上で実験する社会シミュレーション、経営上の課題をモデル化して実験・分析・予測を行うシミュレーション経営学、金融やマーケティングの課題をさまざまなデータから分析する経営知能情報学、および、企業や社会に蓄積された大量のデータから意味のある情報を発見する人工知能研究に取り組む。これらの研究を通して、社会や経営に関する課題の本質を探るとともに、高度な経営分析スキルを身につけたビジネスリーダーの育成を目指している。(研究室URL: http://www.u.tsukuba.ac.jp/~kurahashi.setsuya.gf/)

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