TSUKUCOMM-49
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15人間の心は、予期せぬ出来事に対して、ある程度「鈍感」にできています。それは、日々の生活の中で生じる予期せぬ変化に、心が過剰に反応して疲弊しないための心のメカニズムとして、正常性バイアスが備わっているからです。正常性バイアスとは、災害心理などで使用されている心理学用語で、自分にとって都合の悪い情報を無視したり、過小評価したりしてしまうことを言います。新型コロナウイルスの感染拡大といった未曽有の事態において正常性バイアスが働きすぎると、都合の悪い情報を無視したり、「自分は大丈夫」「そのうち収束するだろう」などと過小評価したりして、非自粛行動の原因となります。また、正常性バイアスが正常な範囲で働かないことにより、「感染を避ける行動」が暴走し、感染した人たちへの否定的なレッテル貼りや差別につながったり、デマや間違った情報が拡散しパニック行動につながったりします。本プロジェクトでは、正常性バイアスと非自粛行動ならびに他者への攻撃・差別行動との関連を検討するとともに、正常性バイアスの規定要因を探ることを目的としています。新型コロナウイルス感染症においては、その収束・終息が誰においても定かではなく、さらに致死率もそれほど高くないことから、他の自然災害と比べても正常性バイアスが起きやすいことが考えられます。今後、正常性バイアスが高い人低い人という切り口で、他者への差別・攻撃行動や非自粛行動につながらないためにどうすれば良いかなど、広く社会へ共有できる提言を目指しています。新型コロナウイルス感染拡大状況における正常性バイアスの影響―非自粛行動や他者への攻撃・差別はなぜ起こるか―人間系 准教授 外山 美樹新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)を原因とする感染症(COVID-19)は、多くの感染者が無症候キャリアもしくは軽症であるものの、高齢者や基礎疾患があるハイリスク群では、過剰な炎症(サイトカインストーム)が誘導されて重症ウイルス性肺炎を引き起こします。しかし、現在、有効な治療薬は見つかっておりません。治療薬の開発には、ヒトと同じ症状を示す動物モデルが必要ですが、通常のマウスは新型コロナウイルスに感染せず、また、ウイルス感染による気道上皮細胞からの炎症も誘導されません。最近になり、SARS-CoV-2はハムスターに感染できることが報告されていますが、ハムスターでは、遺伝子改変技術が構築されておらず、今後の研究展開が難しいのが課題です。そこで本プロジェクトでは、新型コロナウイルスに感染するhACE2-Tgマウスと、我々が開発した上皮炎症を起こすhMx-Tgマウスを掛け合わせ、ヒトと同じように新型コロナウイルスに感染して炎症応答を誘導するマウスを作製します。このマウスを使うことで、新型コロナウイルスに対する阻害剤や、ウイルス感染によるサイトカインストームを抑える化合物の探索を可能にし、治療薬の開発に大きく貢献することを目指します。気道上皮炎症応答が可能なSARS-CoV-2感染モデルマウスの作製医学医療系 教授 川口 敦史

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